大根は軍事機密か 「神聖喜劇」&「売国」
2015年 04月 20日
入隊したばかりの石橋二等兵が、みんなの前で班附きの神山上等兵に苛められる挿話。
神山は石橋が実家に出したハガキを問題にする。
そのハガキにはこう書いてある。
毎日毎日三度三度大根のおかずばっかり食べておりますので、大根中毒しそうです。このごろは戦友たちの顔までが大根のように見えてきました。よろしくお頼みします。このハガキのどこが悪いか?
まず、毎日大根ばかりではない。入隊した翌日尾頭付きの鯛の煮つけ、大根の醤油汁に入っているイワシやイカ(栄養補給のために泥も入っている)も食ったはず。嘘を書いてはいかん。
次に戦友たちの顔が大根のように見えるはずがない。相撲取りの若杉の顔が本当に大根に見えるのか(横で聞いている大前田班長が「相撲取りの顔なら桜島大根じゃろう」と半畳を入れる)。
「大根中毒」とはなにごとか!大根は古くても、生煮えでも絶対に中毒しない、当たらない。だから芝居の下手な役者のことを大根役者というのだ。
「よろしくお頼みします」というのは、何か食い物・嗜好品を送ってくれという謎だ、軍紀違反の秘密暗号通信だ。
軍隊の副食物に大根が多い、というような軍事機密を地方人に通信するとは不謹慎も甚だしい。
とまあ、こういう趣旨のことを、ねちねち言ってはビンタを食らわす。
私的制裁は禁じられているから、「公的制裁」を加えたとうそぶく。
この挿話、偶然立ち回ってきた部隊長がいろいろ訊きただすうちに愚かな(しかし図太い)兵の言葉から、「大根=軍事機密」と神山が言ったことが(再三ごまかすのだが)バレル次第が抱腹の展開になるのであるが。
東京地検特捜部検事の主人公・富永は、東京地検特捜部が彼の友人である文科省の役人に逮捕状を請求したことを知る。
その逮捕状の写しを見せてもらうと、容疑事実は、文科省が特定秘密に指定した情報を某国に漏洩した容疑となっている。
「文科省が指定した特定秘密」についても「某国」についても富永は知ることが許されない。
その友人が文科省や政治家・学者・実業家などのエリートたちのなかにアメリカの走狗・スパイがいることを発見して富永に密かに知らせていたのだ。
どちらもフィクションである。
小説家はフィクションという手法で事態の核心をつくのだ。
さいきんの安倍政権や世の中の動きはフィクションの世界以上に現実離れをしてはいるのだが。
見たり読んだりしたことがあります。
もし、こんな意地の悪い上官ばかりなら、
あの、家族を思う手紙や、南の島のスケッチなどは、
届かなかったのですね。
困ったことに、困った現実ほど、小説の上をいきますね。
その気になれば、こんな楽しい世の中ができるよ、という小説は、
できそうなのに、現実にならない…
チョンと若い蔓をつまんで卵とじのおひたしにすると、絶品の苦み走った「木の芽」(新潟地方)に変身。
大西は日露戦争までは産みの苦しみというような受け取り方なのですが、日華事変からはまったく帝国主義戦争、そういう歪んだ組織目標が意地悪な上等兵を輩出したのではないでしょうか。