もう半分がもう一杯になってクズ屋は猛虎となった 第56回「人形町 らくだ亭」
2014年 10月 30日
いつものことながらちょっと早めに行って甘酒横丁などをぶらぶら、昨日の落語研究会だったかで誰かが触れていて懐かしくなった重盛の「ゼイタク煎餅」を買う。
雲助「商売根問」
楽して儲ける方法。
焼酎につけた豆をまいて、それを食った雀が酔っぱらったら、マクラ代わりに南京豆をまいてやる。
えたりや応、と寝たところを箒で掃いて取る。
両袖を雀の羽のようにバタバタさせてカワユイ。
動物園に無い動物、カッパをとって売れば高く売れる。
河童は尻が好きだから尻を出して川岸にいたけれど一向に河童が来ないで黒山の人だかり。
じつにじつにくだらない噺をいい間でポンポン、昨日の落語研究会「木乃伊取り」とはひと味違った軽妙な滑稽。
パリの蚤の市の名付け親は石黒敬七だと言って、石黒の不思議な蒐集物の展示館「頓珍館」のことを話し、自分がパリの蚤の市に行った時の笑い話をさらっと。
セザンヌ風、ピカソ風、アーサー・ミラー風、あちらの古道具屋は芸術家然としているそうだ。
そして日本の江戸時代、侍が古道具屋に花活けを買いに来た噺に入る。
じつにもってキザというかシャレている、小満んの世界。
志ん輔「もう半分」
マクラなしでネタに入ったと思ったら、居酒屋のメニューをならべたなかで出てきた「豆腐の煮びたし」で脱線。
前の馬生のオカミサンが正月に出すそれが絶品で作り方を訊いて今じゃ我が家の定番だと、それと夏用の「煮奴」のレシピを紹介。
根岸の「鍵屋」の「煮奴」を食いたくなった。
この人には珍しい抑えた演出、悪くない。
嫋々切々。
楽しい趣向也。
さん喬「らくだ」
クズや・留さん、さいしょは低く囁くようにしゃべり、およそ小心そのもの。
月番、大家、らくだの死を喜び、漬物やに至っては「生き返らないように頭をつぶしておけ」とまでいう。
それを聞く留さんの目がきらっと光った。
らくだを背負ってカンカンノウを踊るとらくだが留さんに憑依する。
憑依するだけでなく留さんが変身する。
留さんの中のホントの留さんが現れるのだ。
それは、「らくだより凄い奴がこの世にいるのか」と云われた兄貴分のドブロクの政が借りてきた猫に見えるほどの「凄い奴」、猛々しい男なのだ。
酒に酔って虎になったのではない、もともと猛虎だったのだ。
大声で吠え(前半の囁き声が生きてくる)、らくだの髪の毛を引き抜きつつ削り落とし、体をへし折って菜漬けの樽に押し込み、ドブロクの政を叱咤して樽を担ぎ落合の焼き場に向かう。
とむれえだ、とむれえだ!そういって歩かないと漬物やと間違えられるって!
泥酔している隠亡もまた留のこの世界のツレだった。
らくだを途中で落っことして、暗がりで間違えて道に寝ていた願人坊主を樽に突っ込む。
いてっ!坊主が悲鳴を漏らすと
うるせえ!死んだ奴が口をきくなんかあるもんか!どなって鎮める。
燃え盛る火の中に投げ込まれた坊主は「アち!」、慌てて飛び起きてくる。
いってえ、ここはどこだ?仲入り前に、志ん輔の「もう半分」が「もう一杯」で終わった。
火やだ。
え?冷や?じゃもう一杯
落語研究会でやった「愛宕山」の一八、今夜の留さん。
さん喬は全力投球で二人を高座に引っ張り出した。
落語として好きかと云われたら、、うーむ。
凄かった、というべし。
クズ屋の留さんが前半(変身前)でらくだのことを「寂しいんでしょう、人に構ってもらいたかったんでしょう」と云ったのはいらないセリフではないか。
そんなことを言わなくても留さんがじつはらくだでもあるってことはわかるはず。
小さな虎になる。
朝5時半、起きたら前より小さな人間になっていた。
佐平次さんが昨夜仰られていた、さん喬師『らくだ』の屑屋留さんについての分析、とっても興味深かったです。
素敵な会話の時間でした。次回の居残り会が待ち遠しいです。
落語家さんが、のどを鳴らしながら、お酒を飲む仕草は、みているこっちにも、味が伝わってきます。
噺家は酒屋の回し者かもしれない。
恐縮です。
それにしても、今回の記事は、早かったですね。
私も、朝と昼休みで頑張ったつもりですが、佐平次さんの記事を読みたい誘惑に負けないようにするのが、結構大変でした^^
小満んのまくら、良かったです。
そして、さん喬の高座の良さが、今になって分かるような、そんな気がします。
さて、次回の居残りはどこかなぁ^^
正月、なにをするのかな。
二番煎じは楽しそうだなあ。