現代中国における墓場なき死者の地は諸問題からのアジールか 余華「死者たちの七日間」
2014年 09月 21日
家族連れのピクニックなんか最高だね。
オベントもって、手をつないで、、ああ、そんな佳き日もあったのだ。
若者よ、行けるうちに行きなさいよ。
本作も健気(でちょっと滑稽)な夫婦愛や家族愛が一本の芯となって感動させられる。
ドタバタはやや影をひそめ(皆無ではないが)、全体としては『兄弟』よりも落ち着いた文章。
とはいえ、死んだばかりの主人公が火葬場に行く場面から始まるという凝った仕掛けはかわらない。
墓地がないものは火葬してもらえないので肉体をくっつけたままあちこちを歩く七日間の物語。
次々に遭遇する亡者の仲間は、強制立ち退きで殺された者、不法廃棄された病院の嬰児の死体、地下壕で暮らす鼠族、死んだ恋人の墓を買うために腎臓を売った男、それに売春取り締まりをめぐる騒乱の結果仲良くなって10数年間も将棋を打ち続ける警官と男娼(待ったなしをめぐる口論が絶えない)の骸骨、
彼らの間の憎しみは、生死の境を越えなかった。憎しみは、あちらの世界に取り残されたのだ。これがせめてもの救いだ。
あちらの世界の、汚染米、有毒粉ミルク、毒マントウ、偽タマゴ、革牛乳、石膏麺、化学火鍋、大便漬け臭豆腐、蘇丹紅(発がん性のある合成着色料)、地溝油(下水に含まれる廃油から作った食用油)を非難しつつここの飲食物を賛美する。
「中国で食品が安全なのは、二か所だけだ」主人公は一人で紹興酒を飲んでいる男に訊くのだ。
「どことどこ?」
「一か所はここ」
「もう一か所は?」
「もう一か所は、あちらの世界の中南海さ」
なぜ死んだあとで、永遠の命を得た感じがするのでしょう。神がいるのではない。
宗教とは無縁の物語なのだ。
飯塚 容 訳
河出書房新社
『独居老人スタイル』はたいへんな人気らしく、最寄りの図書館に予約を
入れようとしたら順位25位でした。そこで少し離れた別の図書館でも
試したら15位で、いま待っているところです。急ぐ旅ではないので、
ゆっくり待てます(^-^)
墓地がなく、火葬してもらえないものは死んでからも不自由とは、中国人の死生観はシビアですね。
天国とか地獄とかそういう世界の話じゃないみたいですし、7日後にどうなるのでしょうか。
知らない本をこれ読んだらと貸してくれる、それがほとんど面白い本ばかり、ありがたいこってす。