現代中国における墓場なき死者の地は諸問題からのアジールか 余華「死者たちの七日間」

このところ朝は曇りが多かったけれど今朝は秋晴れ。
家族連れのピクニックなんか最高だね。
オベントもって、手をつないで、、ああ、そんな佳き日もあったのだ。
若者よ、行けるうちに行きなさいよ。
現代中国における墓場なき死者の地は諸問題からのアジールか 余華「死者たちの七日間」_e0016828_9451846.jpg
『兄弟』で哄笑のうちに現代中国社会の抱える悲惨な状況とそこで翻弄される家族愛の物語を読んだ。

本作も健気(でちょっと滑稽)な夫婦愛や家族愛が一本の芯となって感動させられる。
ドタバタはやや影をひそめ(皆無ではないが)、全体としては『兄弟』よりも落ち着いた文章。
とはいえ、死んだばかりの主人公が火葬場に行く場面から始まるという凝った仕掛けはかわらない。
墓地がないものは火葬してもらえないので肉体をくっつけたままあちこちを歩く七日間の物語。

次々に遭遇する亡者の仲間は、強制立ち退きで殺された者、不法廃棄された病院の嬰児の死体、地下壕で暮らす鼠族、死んだ恋人の墓を買うために腎臓を売った男、それに売春取り締まりをめぐる騒乱の結果仲良くなって10数年間も将棋を打ち続ける警官と男娼(待ったなしをめぐる口論が絶えない)の骸骨、
彼らの間の憎しみは、生死の境を越えなかった。憎しみは、あちらの世界に取り残されたのだ。
これがせめてもの救いだ。
現代中国における墓場なき死者の地は諸問題からのアジールか 余華「死者たちの七日間」_e0016828_1030222.jpg
彼らは身振りで食って、うまいと思い、身振りで金を払う。
あちらの世界の、汚染米、有毒粉ミルク、毒マントウ、偽タマゴ、革牛乳、石膏麺、化学火鍋、大便漬け臭豆腐、蘇丹紅(発がん性のある合成着色料)、地溝油(下水に含まれる廃油から作った食用油)を非難しつつここの飲食物を賛美する。
「中国で食品が安全なのは、二か所だけだ」
「どことどこ?」
「一か所はここ」
「もう一か所は?」
「もう一か所は、あちらの世界の中南海さ」
主人公は一人で紹興酒を飲んでいる男に訊くのだ。
なぜ死んだあとで、永遠の命を得た感じがするのでしょう。
神がいるのではない。
宗教とは無縁の物語なのだ。
現代中国における墓場なき死者の地は諸問題からのアジールか 余華「死者たちの七日間」_e0016828_10163023.jpg
ユーモアは健在だ。

飯塚 容 訳
河出書房新社
Commented by vimalakirti at 2014-09-21 15:07
いろんな本をお楽しみなのですね。先日紹介していらした
『独居老人スタイル』はたいへんな人気らしく、最寄りの図書館に予約を
入れようとしたら順位25位でした。そこで少し離れた別の図書館でも
試したら15位で、いま待っているところです。急ぐ旅ではないので、
ゆっくり待てます(^-^)
Commented by sweetmitsuki at 2014-09-21 18:39
いつの間にか空にイワシ雲がかかって、秋が来たって実感します。
墓地がなく、火葬してもらえないものは死んでからも不自由とは、中国人の死生観はシビアですね。
天国とか地獄とかそういう世界の話じゃないみたいですし、7日後にどうなるのでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-09-21 20:24
vimalakirtiさん、私は友人から借りたのです。
知らない本をこれ読んだらと貸してくれる、それがほとんど面白い本ばかり、ありがたいこってす。
Commented by saheizi-inokori at 2014-09-21 20:28
sweetmitsuki さん、そこからが物語が始まるのかもしれない。
神が休んだ後から。
中国人の死生観というより作家の思いでしょうね。
Commented by sheri-sheri at 2014-09-22 09:35
お早うございます。色んなジャンルの本を沢山読んでらして頭が下がります。私は、新聞と何か、ホッとする雑誌の様なもの{クロワッサンなど)あと、元気が欲しい時は、ケストナーの児童文学書など拾い読みして気分一新させたりしています。しかし、この発想を超えたこの著書は、斬新と言うか、奇想天外ですねぇ。それも中国が舞台の話ですからなんだかリアル。考えさせられます。
Commented by saheizi-inokori at 2014-09-22 09:41
sheri-sheri さん、発禁になったこともある作家ですが現代中国を代表する作家だということです。
Commented by at 2014-09-23 11:35 x
最近、ユーモアが足らないんだ。困ってるんです。;;
Commented by saheizi-inokori at 2014-09-23 12:26
蛸さん、ユーモアが足りないのはビタミン不足より怖いですよ^^。
Commented by wawa38 at 2014-09-26 14:39
余華の著書、原文を探してみます(^_^)
Commented by wawa38 at 2014-09-27 10:21
余華は「活着」(活きる)の著者でした^^
小説は読んでいませんが、映画化されたものを見ました。
時代の変遷を乗り越えて生きていくことはすごい、と感じた映画です。
Commented by saheizi-inokori at 2014-09-27 11:59
wawa38 さん、あれコメレスしたはずなのに。
日本で公開されたのですね。
面白い作家だと思います。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2014-09-21 10:30 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(11)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori