憲法の危機を憂えていると芥川賞にも集中できない 柴崎友香「春の庭」

わたくし(日本国憲法)の十三条は「すべて国民は、個人として尊重される」といって、「すべて国民は、人として尊重される」とはいっていないのだ。「人」と「個人」とはたった一文字の違いだけれど、そこにはとても重要なことが含まれているのだ。
「個人」は、「個性を持つたヒト」という意味であり、そこにはひとりひとりの個性を認めない社会から、ひとりひとりの個性を尊重する社会に変えるというおもいが込められているのだ。ひとりひとりの個性を認めないということは、要するにひとびとを「種としてのヒト」としか見ないということなのだ。
ちなみに自民党は、憲法改正草案でここを「すべて国民は、人として尊重される」と変えようとしている。憲法を改正してわざわざ「個人」を「人(ヒト)」といいかえようとしているのは、国民のすべてを「臣民」「天皇の赤子」として、没個性的に「国家の駒」のように位置づけていた戦前の憲法の考え方に戻そうというもので、それは国民ひとりひとりを個性を持ったひととして尊重するという基本的人権の思想を否定する考え方を、こっそり憲法の中に持ち込もうとするものなのだ。
21日に紹介した弟の「わたくしは日本国憲法です。」の中の文章だ。
民主主義の根っこは、ひとりひとりの個人は基本的人権を持っているかけがえのない存在だという固い信念にある。つまり個人の尊厳の承認が民主主義の根っこにある。
これが弟自身の信念でもある。
どんな物や物事もひとつの性質だけでなく、実際にはとてもいろいろな性質を持っている。その無限と言っても過言ではないいろいろな性質を、ひとりのひとがすべて認識することなどできるはずもない。
だからこの社会にある物事をより深く、より正確に理解していくためには、病者も、弱者も、老人もなく、すべてのひとの意見を切り捨てずに、尊重し、活かしていくことが必要なのだ。
その意味で、すべてのひとはほかに代え難い有用性を持っていることになるのだ。
そういう了解を共有するのが民主主義社会だという。
教育は「子どもの外にある知識や価値観を教える」ことという現代日本を覆いつくしている教育観に真っ向から異議を唱え、「子どもの内にある可能性を引き出し、子供が自ら学び、学んだことを礎(いしずえ)に行動する(生きる)ことができるように援助する」ことが憲法の想定する教育だ、という。

本を紹介したら思いのほかいろいろな方からコメントを頂いたうえ、江戸川法律事務所に購入申し込みをされる方も多いと(中には外国から)聞き、甚六としても嬉しい。
あらためてお礼申し上げます。
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恒例により、芥川賞受賞作、柴崎友香「春の庭」を読んだ。

世田谷の建物、露地、世田谷線の狸、、世田谷的空気を感じながら読んだ。
建物とか道具とかを見てそれを使っていた人たちのことを想像する。
建物や木々や道具にも何か人の影を感じる。
オルセー展で並べられた絵画を見ていただろうパリジャンのことを考える。
そういう人たちを絵の方が見つめ返す。

ふんわかした気分で読み終わったが、それでおしまい。
アパートに住む主人公とその隣人たちのコミュニケーションの育ち方、会社で貰った出張土産のプレゼントがやがて大きく豪勢なソファに育っていくのは藁しべ長者だな、とかいい加減な読みかただ。
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小さな世界、感性を丹念に描きこむ、こういう作品が芥川賞を取る。
別に文句はないが、チトわびしくもある。

事実は小説よりもの今日この頃だからか。
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Commented by sheri-sheri at 2014-08-23 11:39
心の奥深く失望と諦めの涙がにじんでは消えまた湧きあがる、そんな心持の日々に、天から清々しい一じんの風と恵の雨。そんな御本を作って下さいました。人間まだ捨ててはいけないと心強く、泣きたくなりました。弟さんの存在がどれだけの人を勇気づけたかと思うと、もっともっと多くの人に早く読んでほしいです。私も注文しました。
Commented by 熊伍朗 at 2014-08-23 15:24 x
学校では憲法について詳しく扱っている時間がないのですが、私自身はいろいろと勉強していきたいと思います。
Commented by antsuan at 2014-08-23 19:51
戦前の日本は、立道君主制を敷き、憲法ではなく、五箇条の御誓文や教育勅語に見られるように、八紘一宇を国是とした人道主義を掲げていました。
ですから、日本人は民主主義を理解していないと思うのです。
だって、国連が出来た後も人種差別を続けていた、立憲民主制の米国が掲げた思想ですもの。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-24 00:18
sheri-sheri さん、過分な言葉をありがとう。
弟も本を書いた甲斐がありました。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-24 00:19
熊伍朗さん、日本人として一番大切なことを教えない?
専門学校でしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-24 00:21
antsuan 、個人を主張することは許されないことでしたからね。
アメリカのダブルスタンダードにはホントに腹が立ちます。
Commented at 2014-08-24 01:36 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-24 10:39
鍵コメさん、憲法の条文そのものを教えるのは法学部でやりますが、憲法の思想=民主主義の基本は条文を離れても教えられるはずなのですが、それこそ小中高大学、どこでも知識としてしか教えていないのでしょうね。
ひとりひとりの掛け替えのない価値を認め貴ぶことを。
Commented at 2014-08-29 15:41
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Commented by saheizi-inokori at 2014-08-29 17:44
鍵コメさん、石破の方がもっと怖いかもしれないです。
ただ安倍のように嘘をついりごまかしは少ないかな、似たようなものか、、。
Commented at 2014-08-29 23:16
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Commented by saheizi-inokori at 2014-08-30 13:10
鍵コメさん、なんだかあたかも見えざる手が指揮をして朝日打倒を謀っているように感じます。
Commented at 2014-08-30 15:33
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Commented by saheizi-inokori at 2014-08-30 21:35
鍵コメさん、それは知りませんでした。
怖いですねえ。
Commented by sheri-sheri at 2014-08-31 10:54
私達は、民主主義の時代に育ち、いいものはいい、悪い事は悪いと教えられてスクスク、のびのび育ちました。これからの子供達が鬱屈したものにならないように大人が頑張らなければね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-31 11:45
sheri-sheri さん、今ときめく人たちも民主主義の教育を受けたはずなのになあ。
家庭が悪かったのかもしれないですね。
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by saheizi-inokori | 2014-08-23 10:56 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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