背にツヅラ、首から目覚ましぶら下げて、めてに鉄瓶、懐には猫のミイ これなんだ?

ピンと空気が張り詰めた朝、冬は嫌いじゃない。
かじかんだ手でハンドル握って、髪の毛が凍ってちゃらちゃら言うような寒さ、菅平から吹き下ろす風に向かって新聞配達に行った少年時代を思い出すのも悪くないし。

昔のことはよく覚えているのに最近のことは忘れる、というけれど、昔のことだってほとんど忘れているのだ。
覚えていると思うのはホンの少し、覚えていたかったことだけ、想い出したいことだけ、それもかなり編集して想い出すのだ。
背にツヅラ、首から目覚ましぶら下げて、めてに鉄瓶、懐には猫のミイ これなんだ?_e0016828_10314726.jpg
(せんじつ浅草で)

若いころはスケジュールをメモしなくてもみんな覚えていたが、次第にメモ帳に頼りだし、隠居後はメモ帳なしでは「俺、なにしたらいい?」。
それさえ最近はメモ帳を見ることを失念する日もあって、昨日がそれ。
いつも牛のよだれのブログを珍しく短くまとめて(あれでも)、ふとメモ帳で来月(来年だ)の予定を確かめていたら昨日の午後欄に何か書いてあった。
13時~国立演芸場。
間に合うではないか。
背にツヅラ、首から目覚ましぶら下げて、めてに鉄瓶、懐には猫のミイ これなんだ?_e0016828_10391653.jpg
永田町駅に出来た飲食街で195円の高菜のおにぎりを買ってロビーで食う。
コンビニのよりうまいような気がする。

中席初日、五分の入りの最前列。

半輔「一目上がり」
志ん八「魚男(新作)」
デパートの催事売り場の男みたいな語り口、笑えない。
志ん丸「子ほめ」
東京ガールズ・音曲バラエティ
蔵之助「佃島」
下手ではないけれど噺がつまらない(新作?)
背にツヅラ、首から目覚ましぶら下げて、めてに鉄瓶、懐には猫のミイ これなんだ?_e0016828_10491775.jpg
(演芸場のロビー、クライネ)

小満ん「王子の幇間」
いつものように抑えた早口、ときどき噛みながら、幇間・平助の女中や婆やたちへの嫌味をポンポン。
「雑巾つなぎの刺し子帯」「十三文甲高のおみ足」「(涙でおしろいが流れて)おや、ご出身は九州でしたか、かおしまけん」、、聞き取れないのもあるが、俺には面白い。

嫌味な奴、嫌われ者の幇間、頭は切れるし夢を見た日もあっただろう、今は意地汚くひねくれて開き直って生きている。

旦那夫妻は「平助入るべからず」という貼り紙をしてるのに委細構わずずうずうしく押しかけてきては金をねだりそこらの菓子をつまみ、靴まで(片っ方づつ)持ち帰る。

旦那が留守だと言えば、いない人の悪口を言うだろうから、さんざ言わせてそこへ旦那が現れれば二度と来なくなるだろう、と。

女将さんが平助に気のある振りをして、じゃあ駆け落ちしよう!
金の延べ棒が入っているツヅラを担いで!天賞堂で買った大きな目覚まし時計を首から下げて!そこの鉄瓶下げて!猫のミイも懐に抱いて!
したたかな女将さんの命ずるままに、、出来上がった平助の姿ったらないね。
妻子を捨てても女将さんと暮らして新しい人生を開くんだ、って思ったかどうだか、ちょっとカワユクもある。

そこに旦那が現れて、そのなりはいったいなんだ?!
へい、ご近火のお手伝いで
初めて聴いた、八代目文楽の十八番。
背にツヅラ、首から目覚ましぶら下げて、めてに鉄瓶、懐には猫のミイ これなんだ?_e0016828_11194283.jpg
(カミサンの習作)

夢葉・奇術
いつものように牛追いの鞭を鳴らし、ラヴェルやマーラー、芥川也寸志がこの音を曲のなかで使っている、ウィップという楽器も作られている、と実物を取り出して鳴らして見せる。
とぼけた味の奇術、明るい語りで場内温度を上げる。

左龍「初天神」
ぎょろっとした目を活かして金坊のふくれっ面や甘え面が秀逸。
一之輔のような猛烈なギャグの連続で笑わせるというよりも、間のとり方や親子の表情・語気の変化で笑わせる。
当たり芸になりそうだ。
背にツヅラ、首から目覚ましぶら下げて、めてに鉄瓶、懐には猫のミイ これなんだ?_e0016828_1129365.jpg
(青山通りで、エイベックスの本社)

ロケット団・漫才
四文字熟語
「ひとつ疑いが出ると何もかも疑わしくなる」
「疑心暗鬼!」
「ブー、イノセナオキ」
時事ネタもうひとつ
「テロみたいな顔をしている石破が酒を飲んでテレビに出てたのはケシカラン!」
「まさか」
「目が座ってた」
志ん輔「二番煎じ」
今冬初めて聴く、好きな噺。
前半、リズムがいまいちと思っていたら、たっつあんが「火の用心、さっしゃりませ~」あたりから調子が出てきた。
いろんな稽古事に熱心な成果だ。

後半の猪鍋の場面はいつ聴いても面白い。
みんなで「ナベをつつく」って「みんな」だね。

この噺、一つ困るのは、「どうしても酒を飲みたくなる」こと。
ま、寄席に行くと誰かが酒の虫を起こしちゃうのだが。
背にツヅラ、首から目覚ましぶら下げて、めてに鉄瓶、懐には猫のミイ これなんだ?_e0016828_11455751.jpg
三宅坂から渋谷まで半分になった月を伴づれに歩いた。
5キロ強を一時間ちょっと、うちに帰ったら「ねぎま鍋」と「赤ナマコ」が待っていた。
Commented by ikuohasegawa at 2013-12-12 16:46
「二番煎じ」は好物です。
おっと、酒の噺なのでつい好物とかいちゃいました。私も好きなのです。

Commented by saheizi-inokori at 2013-12-12 17:45
ikuohasegawa さん、前半の演芸大会も楽しいですね。
Commented by 小言幸兵衛 at 2013-12-12 21:22 x
間に合って良かったですね^^
「王子の幇間」は、今ではなかなか聴く機会がない噺。このネタだけでも行った甲斐があったのではないでしょうか。
「二番煎じ」は、私も聴くと呑みたくなります。
Commented by saheizi-inokori at 2013-12-12 21:44
小言幸兵衛さん、そうです、2000円ですしね。
シニアだと1300円。左龍も良かったし志ん輔も楽しかった。
Commented by chaiyachaiya at 2013-12-12 21:47
繊細な筆致の葉っぱからぶら下がる、蓑虫くんの “ふふふ” に やられました‼
佐平次さんお読書のスピードには、驚かされます。
私は、骨折&引き籠り しなければ、「西行花伝」読みあげるのに、もっともっと時間を要した気が致します。

今日のNHKのニュースで、ストーカーの心理と解決法(どちらかというと、その心理を分析し、ひとがストーカー犯罪者とならぬようにしていくには〜的な方面からの)を見ていたら、「西行花伝」 ‘九の帖’の後半の、ある娘への溺愛に悩む長者の息子への、西行の提言を思い出しました。
もっとも、この場合、恋心と妄執のために、相手を殺めようというのではなく、恋い焦がれて自らが死んでしまいそう、という状況ですので、大方の今の世のありようとは違いますが、“自らは既に死んだ者として、相手に対して、振る舞う” 時間は掛かるけれど、結果として、恋が成就する、という・・・。
う、や、やっぱり、物語の内側だけでのみ叶う“愛のかたち”ですかの・・・。
Commented by reikogogogo at 2013-12-12 22:54
昨晩の月は大きかったですね.東京の空のようではない星も沢山見えました。
午前様になってしまって,見上げる空は久しぶりの事でした。
Commented by saheizi-inokori at 2013-12-13 09:28
chaiyachaiya さん、現身に死ぬ、ですね。
身を捨ててこそ、とはちょっと違うのかな。
ストーカーになるほど愛する・恋することが出来る人は幸せでもありますね。幸せな苦しみかな。
Commented by saheizi-inokori at 2013-12-13 09:29
reikogogogo さん、昨晩はずっとうちのなかでした。
見損じました、今夜は!
Commented by waremokou at 2013-12-15 22:35 x
こんばんは!その菅平、急ぎじゃない時は、高速道が出来た今も上り下りします。地蔵も然り。
無機質で、高速で一定速・・気を張りっぱなしの運転より
緩急付けたアクセル、四季の移り変わりを楽しみながらの運転の方が楽しいです。第一ただです^^
Commented by saheizi-inokori at 2013-12-16 09:45
waremokou さん、いいなあ、そういうドライブ。
往時の徒歩の山越えもしのばれます。
昔の書物は当時の距離感や時間の感覚をしのびつつ読まないと微妙な味わいが見えなくなりますね。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2013-12-12 12:02 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori