生きることは物の哀れを知ること 辻邦生「西行花伝」

ことしは近所の紅葉は期待薄だなんて書いたので奮起したのか、歩いてみると紅葉諸君頑張っている。
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ブログを繰ってみると去年の今頃は箱根に行って盛りの直前、近所の木々は来週が盛りだった。
俺の方もがんばって歩かなきゃ、紅葉黄葉君たちに申し訳ない。

駒沢公園は「東京ラーメンシヨー」でにぎわっていた。
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行列の長さがまちまち、台湾と名古屋のコラボのところが短いのが可哀そうだった。
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ラーメンの入った発砲スティロールのカップをもって歩いている人、テントが満員なのでそこらに座って食べている人、立ったまま啜っている人もいる。
秋の日差しはイイ気持ちだが濃厚なラーメンの臭いにはいささかヘキエキ、カップの中をチラッと覗くといかにもいかにもでますます食欲は出ない。

それにしても食べ比べるのならマイカップでも持参して何人かといろいろ分け合って食べてみないとそんなに食えないんじゃないか、などと喰いもしないくせにうるさい隠居だ。
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サンチも紅葉ファッションで。
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春は花、秋は紅葉、花鳥風月の移ろいを喜ばなかったらこの世に棲む甲斐もない。
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西行の思想と行いを弟子が語る形の、「花伝書」。

700頁のどこを開いても深く頷かされる言葉がある。
旅に出てはじめて、人はこの世の森羅万象(いきとしいけるもの)がすべて滅びのなかに置かれているのを、心底から澄んだ気持で知ることができる。たしかに山も風も木々も花も旅の道のべに近々と寄りそって、旅人を慰めてくれる。だが、この不変と思える山も、永遠(とこしなえ)に波を打ちよせる海も、旅人の眼には、限りある生命に見えてくる。山の終わり、海の終わりがそこに見えるのである。
この思いが私のうちに染みこんできたとき、私は、死にゆく幼児(おさなご)を見守る親の眼ざしで、この世を眺めているのを感じた。
―死んではいけない。お前が死んでは、私には生きる意味などなくなってしまう。
私は、そう叫んでいる親の悲しみと物狂おしさで月を見、山を眺め、道ゆく人を見つめている自分を感じたのである。
旅に出ることの意味が解ったのは、この一種の深い悲しみと愛惜が、身の内を貫き、常住、哀傷の風が吹き渡るのを全身で知ったときであった。空ゆく雲も、梢をゆらす風も、決して行きずりのものではなく、すべて私に無縁のものはなかったのだ。旅寝の夜々、枕もとに落ちる月の光は、もはや二度とみられぬ清らかな輝きとなって心に深く染みてくるのであった。

あはれしる 人見たらばと 思ふかな 旅寝の床に 宿る月影

この世に身を受け、こうして月の蒼さを見ていることが信じられないような運命の不思議に思えてくる。前世の奇しき因縁によって、いまこの時、心に澄み渡る怡悦(いえつ・よろこび)を与えられている―そんな思いが不意に心に衝きあげてきて、突然、嗚咽したいような気持になるのだ
北面の武士・佐藤義清が出家して西行と名乗り陸奥への旅に出たときの感慨。

軽佻浮薄に日々を蕩尽している俺にもほんのほんのほんの少しではあるが共感できる。
旅をしているのだな、俺は。
そう思って「日々の月の光」をいつもあるものとしてではなく、その一瞬の奇しき縁で出会えたものとして感得して生きて行くのだ。
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新潮文庫
Commented by tona at 2013-11-18 13:04 x
すべて一瞬の奇しき縁なのですね。納得です。
グルメフェアなど、マイカップ持参のシェア、なるほどで大賛成です。
↓の3枚目の紅葉が映り込んだ水面の写真、最高です!印象派モネの絵みたいでもあります。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 13:39
tona さん、モネでした、ドガなんて書いてしまいました。
モネは現代の高性能(コンデジではありますが)カメラ以上の「見て解像し描写する力」をもっていたのですね。これまた奇しき縁を感得しえたということでしょうか。
Commented by chaiyachaiya at 2013-11-18 15:01
辻邦生による西行モノ、読んでいなかった。よ、読みたい。
色いろピンと来ない私でも、年代的に、少しはわかる部分が増えているはず・・・。
新潮文庫だし、街の大きめな本屋さん行ってみるっと‼
(勝手に課題図書週間 from 佐平次さん してま〜す🎶)
Commented by at 2013-11-18 16:06 x
西行の旅、どんなたびやったんでしょうか、
勿論、歩きやし、飲み食いもままならんかったりしたやろし、
今とは比べもんにならんかったやろね、
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 16:40
chaiyachaiya さん、歴史物語としても面白いですよ。
私は近所の古本屋で手に入れました^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 16:48
蛸さん、29歳のときは平泉の藤原秀衡に会ってます。
次に行ったのは70歳かな、途中頼朝にもあって秀衡に東大寺大仏殿再建の支援を依頼してます。
半年以上の旅、昔の人は凄いですね。
Commented by KawazuKiyoshi at 2013-11-18 17:16
西行
今もって、考えさせてくれる本ですね。
今日もスマイル
Commented by itohnori at 2013-11-18 17:35
Saheizi-inokoriさん 、今晩は。
 そうですね。
紅葉しないで落葉してしまうのかなと思っていたのですが、綺麗に紅葉している木もありますね。
Commented by みい at 2013-11-18 19:00 x
こんばんは
 サンチ君、紅葉ファッションなんだ!かわいい~
森羅万象、すべて一期一会なのかもね。
 「ともすれば月すむ空にあくがるるこころのはてを知るよしもがな」
好きな歌のひとつです。
Commented by fusk at 2013-11-18 19:13 x
西行花伝も好きでしたが、嵯峨野明月記や江戸切絵図貼交屏風も良かった。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 19:17
KawazuKiyoshiさん、今なおのこと、という感じがしました。
ほんとに地球環境が滅びつつあるのですから。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 19:18
itohnori さん、そういうのを見つけて愛でてやりたいのです。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 19:19
みいさん、今日は暖かかったのでなにも着せずに連れていきました。
向こうから犬が来るとお座りして迎える癖があるので服を着せといた方が汚れないかな。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 19:22
fuskさん、私は『背教者ユリアヌス』しか読んでいません。
嵯峨野明月記なども読みたいです。
Commented by tocotoco-o3po at 2013-11-18 22:11
こんばんはです~
17日の記事ではありませんが、今日は会社で悲しく感じることがあって、どうにもこうにもならずかなり落ち込んでいました。

帰り道にとても大きなお月様がみられて少し救われました。
西行すてきですね^^

愚痴をこぼしてすみませんでした。
いつもありがとうございます。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 22:29
tocotoco-o3po さん、愚痴を言いたくなることばかりですね、私も。
だから毎日ブログを書いているのかもしれません。
Commented by poirier_AAA at 2013-11-18 22:33
お天気がよくない毎日ですが、それでもときどき月が見えます。
↓のお月様を見て、あぁ佐平次さんと同じお月様を見ているんだと嬉しくなりました。

辻邦生、初めて読んだときに少し苦手な文だと感じて、それ以来手に取らずにいました。でも、この抜粋部分を読んで、今なら読めるかもしれないという気がしてきました。
Commented by k_hankichi at 2013-11-18 22:34
「西行花伝」は、実はまだ読んでいないのです。近々、手に取りたく。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 22:54
k_hankichiさん、読みごたえありました。
Commented by noreizoko at 2013-11-18 23:00
旅かあ。食べる事、ひとつとっても、色々ですものねえ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 23:02
poirieさん、秋田、東京、パリのお月様同盟ですね。辻邦生 は私は「背教者ユリアヌス」を一生懸命読んで面白かったのですがそれきりになっていたのは確かに構えないと取り付けないようなところがあったのですね。でも本書はグイグイ読みましたよ。
Commented by 熊伍朗 at 2013-11-18 23:06 x
いいですね・・・西行。
自分も出家したいなあと思ったことがあります。
今でもあるかな?
業が深く、迷ってばかりの人間なんです。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 23:07
noreizokoさん、実は日々の人生そのものが旅ではないかと思うのです。そのことを実際に旅することで気づかされるのではないかと。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-18 23:14
熊伍朗さん、出家したら業と離れられるかというと、なかなか。
西行は出家しても現実社会との関わりを捨てないで面倒なことも引き受けたようです。
Commented by j-garden-hirasato at 2013-11-18 23:25
どうも行列が苦手で、
こういうイベント(行列に並んでありつける、というようなもの)には、
ほとんど参加しておりません。
長野でも「ラーメン対決!」のようなイベントが毎年ありますが、
少し前に一度だけ参加して、
あまりの人の多さで食欲もなくなり、
何でもいいや、になってしまいました。
我ながら、
実に、損な性格だと思います(笑)。
Commented by 豆ママ at 2013-11-19 00:23 x
らーめんも慣れると美味しいですよ!
らーめんショー行きたいなァ。
Commented by maru33340 at 2013-11-19 06:34
「西行花伝」読み返すべく本棚にあります。
読み時が来たようです。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-19 08:23
j-garden-hirasato さん、私もそうなんです。
好きなものでも並ぶのはだめ。
でも損な性格でもないかと、並んで手に入れてもどうってことない、事が多そうです。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-19 08:25
豆ママさん、ラーメン大好きですよ。
ただあの雑踏に立ちこめる臭いには辟易でした。
ランチは半分くらいは家庭のラーメンですがたまに外のを食べたくなります。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-19 08:26
maru33340 さん、西行は現代人にものをいっているかのようです。
辻はそう思って書いたのかもしれません。
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by saheizi-inokori | 2013-11-18 12:00 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(30)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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