修羅を脱け出せるのはデクノボーだけだ こまつ座「イーハトーボの劇列車」

こまつ座第101回公演「イーハトーボの劇列車」を観に紀伊国屋サザンシアターへ。

最初のうちは劇の中に入っていけなかった。
説明的なセリフが面倒、落語とか能・狂言のようなものしか受け付けなくなっているのかもしれない。
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(ロビーで買った本、俺も一緒に聞かせてもらおう)

家出した宮沢賢治(井上芳雄)を連れ戻そうと父親(辻萬長)が上京して、賢治と宗論を戦わすあたりから面白くなった。
賢治が法華経を信じ先祖代々の浄土真宗を否定、その大きな理由に法華経は、「今いるそこを浄土としろ」といい浄土真宗は、「とおく西方浄土の阿弥陀様を信じて生きよ」という点にあるという。
そこで父はニヤリ、「だから東京でなくて花巻に戻って花巻を浄土にしろ」、一本取られた賢治。
下宿のおばさん(木野花)を立会人にした一幕はいかにも井上ひさしらしい言葉遊びやユーモアが横溢して楽しかった。
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(劇を観終って代々木~原宿~渋谷と歩いて帰った)

東京に憧れつつも結局は故郷花巻にユートピア=イーハトーボを作ろうとする。
エスペラントを農民に教えて世界中の農民と話をさせたい。
詩人、童話作家、宗教家、音楽家、化学者、農業技師、土壌改良家、造園技師、教師、社会運動家、、情熱の赴くままに理想を追い求めた賢治は、
どれもうまくいかなかった
自立できず、父の意を受けて追いかけてきた刑事(辻萬長)に徹底的にやられる。
あんだは百姓だと自分でおっしゃっとるが、百姓仕事でご飯を食べていますか。、、何から何まで親がかり、そんな百姓がどこにいますか。あんまり百姓をばかにせんでもらいたい。
賢治はつらかっただろうなあ。
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(修羅の娑婆で疲れた人たちを乗せた劇列車が走り過ぎる)

修羅の世界から脱け出すためにどうしたらいいか。
賢治がたどり着いたのは
ほかの人のために徹底的に自分の命をささげる。
という考え方だ、と西根山の山男が総括する。
この劇は、なめとこ山の熊撃ち、人買いの神野仁吉、風の又三郎など賢治ワールドの登場人物が狂言回しをする。
さいごに彼らが汽車の座席に横たわる賢治を、苦しまずに死なせて楽にしてやろう、と窓を開けて冷たい空気をいれてやる、肺炎ならすぐ死ぬだろうと。
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(代々木体育館)

日蓮上人だって人間だ。
元気があるときは自分が世界を救う唯一の人間だと思っただろうが、思い屈するときには自分を木偶のボーだと思っただろう。
私のような弱い人間には木偶のボーの日蓮の方がありがたい、と賢治はいう。
自分がデクノボーであると思いつめて、徹底すること、それが真の力です。人間が、自分のことを、世の中にあるもののなかでいちばん馬鹿で、めちゃくちゃで、まるでなってないと思い、それに徹したとき、まことの力があらわれるのです。
関東軍の石原参謀の信奉した日蓮は強い救世主日蓮、賢治の日蓮とは違うのかもしれない。
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さいきん読んだ石牟礼道子の「あやとりの記」「苦界浄土」と通底する世界観を感じた。
人々を結びつけるのはエスペラント語ではなくて、透き通った空気、大地の恵みと宇宙の不思議に感謝・敬意・畏怖の念をいだく謙虚な気持ちではなかろうか。
言葉はむしろそれぞれの方言がふさわしいのだ。
標準語では伝えられないような、腹の底から湧き出る何かを伝え合うべきなのだと思う。

「農村をつぶすな」「きれいな空気を大事にせよ」、、現修羅場に求められる最重要課題だ。
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十三夜。
軽く飲んで歩いて帰ったら、16600歩。
Tracked from 気ままな読書ノート、絵手.. at 2014-03-05 10:23
タイトル : 「イーハトーボの劇列車」作井上ひさし 演出鵜山仁
■作井上ひさし■演出鵜山仁■出演井上芳雄 辻萬長 大和田美帆 木野花 土屋良太 石橋徹郎 小椋毅 松永玲子 田村勝彦 大久保祥太郎 鹿野真央 みのすけ 演奏:荻野清子 ■ストーリー 大正七(一九一八)年十二月二十六日、宮沢賢治は、故郷花巻から東京に入院している妹・とし子の見舞いを目的に上野行きの夜行列車に乗り込んだ。その手には大きな革のトランクが握りしめられ、たくさんの願いが詰め込まれていた。 「大好きな音楽を聞き、エスペラント語の勉強をする。そのためには家の重圧から逃れ、父の庇護の下を離れなけ...... more
Commented by wawa38 at 2013-10-18 14:12
若いころ、芝居に凝っていた時期がありました。その中に井上ひさし脚本の芝居もあって、数本は観たと思います。「イーハートボ・・・」は見てませんが、彼の芝居はどれも印象深いです。
名古屋に来ないかな、こまつ座。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-18 16:27
wawa38 さん、昨日後ろの席の人は帰りの飛行機とか新幹線の時間を気にしてました。
兵庫ではやるようですがね。
Commented by cuckoo2006 at 2013-10-18 21:13
「イーハトーボの劇列車」、私も一昨日の水曜日に観て来ました。賢治が元祖モラトリアム青年と知って親近感が増したような。帰りがけ「銀河鉄道の夜」の文庫本を紀伊国屋で買ってしまいました。saheiziさんといつか劇場でばったりお会いしそうです。
Commented by k_hankichi at 2013-10-18 22:16
良いですね~。賢治さんは、詩も小説も、あのころによくこんな光景を創造できたものだと、つくづく思うのです。
Commented by rinrin at 2013-10-18 23:24 x
いいなぁ~~
行きたいなぁ~~
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-19 00:52
cuckoo2006 さん、聖人賢治ではない、日蓮も人間だ、そうですよね。
だから好きなんです。
もういちど賢治を読みなおしたい、石牟礼も。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-19 00:55
k_hankichi さん、賢治は預言者だったのかもしれない。
石牟礼道子が巫女であるように。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-19 00:57
rinrin さん、11月28日に岩手県民会館ホールで公演があるようですよ。
Commented by kuukau at 2013-10-19 08:57
肺炎ならすぐ死ぬだろう、と汽車の窓を開ける、のがいいわw
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-19 09:28
空子さん、死ぬのがこわくなくなります。
好い人はね。
でもみんな『思い残し切符』をおいていくのです。
Commented by c-khan7 at 2013-10-20 17:39
賢治の作品には弱者への優しさが詰まっています。
優しくなるには、強い心が必要だと実感する昨今です。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-20 21:06
c-khan7 さん、強い心はあったけれど身体が弱かったのが賢治の哀しさ。
優しさを続けるのには健康が必要なんですね。
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by saheizi-inokori | 2013-10-18 12:35 | 能・芝居 | Trackback(1) | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori