女の執着 男の執着 とかくこの世は 「呂蓮」「通小町」@国立能楽堂

久しぶりの能楽堂は久しぶりの雨に濡れていた。
最前列、舞台を見ているだけで気持ちが落ち着いてくる。
笛や鼓の音が聞こえると快い別世界だ。
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狂言 「呂蓮」(ろれん)

シテ・出家・石田幸雄は西国めぐりの途上、アド・宿主・野村萬斎に宿を乞う。
宿主は出家の気楽な境涯、後生の極楽を望み、剃髪して僧になりたいという。
カミさんの了解は得たのか?
もちろん!早く出家しろと言われてる。
ジョリジョリジョリ、頭がきれいに丸められて、僧の衣も貰って、あっぱれ俄か坊さんがイッチョあがり。
萬斎は法名をつけてくれといい、蓮の字が入っている方がいい、そんなら「伊蓮坊」「はれんぼう」「ホレん坊」、、幸雄坊さん、イロハ順に言って結局「呂蓮坊」に決まる。

そこへ小アド・妻・高野和憲が登場、勝手に出家するなんてひどすぎる、許さない!
じだんだ踏んでワワシイ女房。
萬斎は「この坊さんが無理やり坊主にしたんだ」と逃げ口上。
「髪を元のように生やせ!」女房は幸雄坊主と萬斎坊主に取りすがって泣き口説き、挙句は亭主と消えていく。
幸雄坊さんひとり残される。
出家は気楽だ、だが出家するのはなかなか難しい。
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能 「通小町」(かよいこまち)

八瀬の山里で座禅修行をしている僧・ワキ・森常好のところへ毎日木の実や枝をもってくる女がいる。
女・ツレ・大島輝久が「椎、柿、篠栗、梅、桃、梨、蜜柑金柑、、」木の実尽くしを謡ったあと、名前を尋ねると、「恥ずかしい、自ら己(小野)とは言うまい、薄の茂った市原野辺に住む姥です、どうか亡き跡を弔ってくれ」と言ってかき消すように失せにけり(失せても中入りしないで後見座に装束も改めずに待っている)。

それで思い当たるのは、ある人が市原野辺の薄の陰から
秋風の吹くにつけてもあなめあなめ、小野とはいはじ薄生ひけり
という歌が聞こえてきた。
小野小町の髑髏の目の穴から薄が生え出て、それが風にそよいで「あな、目痛し」(穴目)」というのだ。
きっとあの女は小野小町の幽霊だ。
僧が市原野辺に行き経をよむと小野の幽霊は喜んで「戒を授けてくれ」(仏弟子にしてくれ)という。
すると、幕の内あたりから低く恐ろしい声で、
いやかなふまじ戒授け給はば、恨み申すべし。はや帰りたまへお僧
深草の少将の霊・シテ・粟谷能夫だ。

俺だけを残して行くなといえば、僧はそなたも一緒に戒を受けろと説得する。
小町は少将が何といおうと私は授戒すると言い、少将は
さらば煩悩の犬となって、打たるると離れじ
なんとまあ、恐ろしい姿!
小町の袂を取り肩に手をかけ引き留める少将の霊。
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僧が懺悔をして罪を滅ぼしなさいといえば、少将は小野小町の言いつけに従って百夜通った様子を舞ってみせる。
小町の霊は、そんな気持ちがあったとは知らなかった、と冷たい言葉。
車で通うと人目につくからと言われ、輿や車もやめて跣で通ったのだ。

少将の霊が舞いつつ「あら暗の夜や」というと小町の霊が「夕暮れは、ひとかたならぬ思ひかな」とつける。
間髪を入れず、大きな声で厳しく問いただすように「夕暮れは何と」と小町を見つめる少将の迫力。
お前は月を待ってひとかたならぬ思いなのだろう、俺を待ってるのじゃなく、嘘ばかり。
幽霊になって恨み言を繰り返す少将。

九十九夜を過ぎてあと一夜、笠を捨てて風折烏帽子、蓑を脱ぎ捨て花擂り衣の色がさね、裏紫の藤袴、紅の狩衣を気高く着こなして、祝の酒も飲酒戒を守って、それで少将・小町揃って仏道なりにけり。
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百夜満願の日に死んだ少将の愛した女の成仏さえ妨げようという小町への執着、無念、口惜しさ。
そういう心を抱きながらも百夜の様子を舞う姿は気品と雅趣に富んでいた。

笛 藤田朝太郎 小鼓 観世新九郎 大鼓 亀井広忠
地謡 粟谷充雄 内田成信 金子敬一郎 粟谷浩之 狩野了一 粟谷明生 出雲康雄 長島茂
後見 友枝昭世 中村邦生
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国立能楽堂では入門展示「能面入門」が無料で見られます。
式三番、女、「万媚」「曲見」など、男、「邯鄲男」「弱法師」「俊寛」など、尉、悪尉、怨霊、「痩男」「蛙」「二十余」など、癋見(べしみ)、飛出、50種類を超える面が展示されています。
Commented by haruneko3 at 2013-07-19 14:48
能と狂言。。。。大人の夏のやり過ごし方ですね。あの舞台は涼しげで身も引き締まり好きです。それにしても、今も昔も人の気持ちに変わりはないのですね。。。。しみじみ。
Commented by poirier_AAA at 2013-07-19 18:56
能舞台はそこだけ別世界がひろがりますね。
演じられているのは、確かに人の話なのに。
どんなに暑い日でも、そこだけ空気の温度が違うような、不思議な場だと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-19 21:16
haruneko3 さん、今も昔も、そうですね。
そこがいつまでも面白い理由のひとつなのかもしれません。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-19 21:17
poirier_AAA さん、なんしろ幽霊が必ず出てくるのですから。
それが不自然にも感じられないのも不思議です。
Commented by 豆ママ at 2013-07-19 21:26 x
あらら、私は最後部でした!
なかなか古典の世界の入りきれず、現代の目で観ちゃってます・・・。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-19 21:42
豆ママさん、いらっしゃってたんですか!
今回はとくに現代的な作品でした。
観阿弥は形式にこだわらないのだそうですね。
Commented by 熊伍朗 at 2013-07-19 21:51 x
私も能楽は大好きです。
謡いは長年稽古しましたが、なかなかシテをやらせてもらえませんで、いつもワキばかりでした。
やめて何年にもなるので、もう声は出ませんが、あの幽玄の世界にもう一度浸りたいものです。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-19 22:14
熊伍郎さん、それは素晴らしい!私も謡はやっておくんだったと思います。そうはいっても余裕はなかったんですが。
Commented by j-garden-hirasato at 2013-07-20 08:41
狂言も能も
ちゃんとしたものは見たことがありません。
日本の文化を理解するには、
いつかは、と思いつつ、
ついつい…。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-20 09:45
j-garden-hirasato さん、私もずっと敷居が高かったのですが、数年前に縁があって行きはじめました。
あの空間、音、舞姿、意味が分からなくてもいいものです。
Commented by at 2013-07-20 10:05 x
隠居、明日は頼むで!
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-20 10:12
蛸さん、まかしとき!っても1ッ票しかないんやけど。
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by saheizi-inokori | 2013-07-19 12:25 | 能・芝居 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori