オバマはフアシストか 佐藤優「新・帝国主義の時代 左巻 情勢分析篇」

ナチズムとファシズムは違う。
ヒトラーのナチズムはアーリア人種の優越性(反ユダヤ主義と裏腹)という荒唐無稽な人種神話を基礎とする運動であったが、ムッソリーニのファシズムは、はるかに知的に洗練された運動で、「マルクス主義に基づく社会主義革命を排除しつつ、自由主義資本主義がもたらした失業、貧困、格差などの社会問題を、国家が社会に介入することによって解決すること」を提唱した。

ムッソリーニが、国民との直接接触を大事にし、「文節を中途半端にせず、文法的に正確な話し方をし」「印象的な警句などで超越性を醸し出す、安堵感を与える断定的な演説」で人々を人々を引き付けた。
この点はオバマ大統領によく似ている。

オバマが2008年の勝利演説で「金持ちも貧乏人も、共和党員も民主党員も、黒人も白人もヒスパニックもアジア系もアメリカ先住民も、ゲイもストレートも、障害者も健常者も含めた、みんな」を代表することを明らかにした。
アメリカ合衆国という国家の下では、人種、エスニシティー、ジェンダー、政党などの差異が基本的に解消するという発想はファシズムにつながりかねない。
さらにオバマは絶対平和主義者ではなく国家機能の強化をはかり闘う大統領である。
リーマンショック以来、保護主義は世界の潮流であり、各国は国家機能を強化している。
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筆者は現代を、新・帝国主義の時代という。

善悪という価値判断を超えて、資本主義が発達する過程で必然的に起こる現象が帝国主義。
外部である他国からの搾取と収奪を強めて、生き残り、発展しようとする大国の本能に基づいている。
21世紀の帝国主義は植民地を求めない、全面戦争も避ける、コストが引き合わないし共倒れになりかねないからだ。
帝国主義国は、相手国の立場を考えずに最大限の要求を突きつける。それに対して、相手国が怯み、国際社会も沈黙するならば、帝国主義国は強引に自国の権益を拡大する。これに対して、相手国が必死になって抵抗し、国際社会も「いくら何でもやり過ぎだ」という反応を示すと、帝国主義国は譲歩し、国際協調に転じる。
それは、反省したからではなく単に形勢利あらずと一旦矛を収めたに過ぎない。
日本人が自分の頭で考え、汗と血を流さないと、日本国家と日本人を守れなくなる時代がすでにやってきていることを冷静に認識すべきだと思う。日本が新・帝国主義的な政策転換を遂げなくてはならないことは、善悪を超えた、客観的な必然だ。
新・帝国主義のゲームのルールも帝国主義と同じく「食うか食われるか」だ。日本国家と日本人が「食われない」ようにすることが、政府の第一義的課題だ。そして、日本が外部を食って生き残る場合にも、外部に与える痛みを極小化し、共存共栄を図れるような「品格のある新・帝国主義国」にわが国がなって欲しいという想いを込めて本書を書いた
と前書きにある。

プーチンの帝国主義宣言、菅総理の「新・帝国主義演説」、北朝鮮の外交ゲーム、イラン核開発とイスラエル暴発の危機、プチ帝国主義化する韓国、亜民族・沖縄の民族化の危惧、アサンジ(ウィキリークス)のアナーキズム、英国暴動(2011)年の炙りだした恐怖、日本人も標的になる無差別テロへの対処、小沢追放の背景は?(2・26の青年将校との類似=検察官たちは小沢幹事長を叩き潰しておくことが国益であると固く信じ、取材する社会部記者たちも同じ共同主観性をもっていた)、核密約の存在を証言した東郷・村田の真意、日露交渉の妨げになる外務省の政治主導との功名争い、、。
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知らないことだらけ、夢中になって読んだ。
とくに世界のインテリジエンスたちとの対話が興味津々。
「桃さんのしあわせ=シンプルライフ」を見ている間にもスパイたちの工作はたゆまなく続いている。
政治家と官僚のやり取り、外務官僚の実態などもリアルだ。
 
新聞の外報面を隅々まで丁寧に読まなければならない。
産経が政権の広報紙みたいなので止めようかとも思ったが、産経だけのスクープも多いのだ(扱いは小さくとも)。
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さて、品格ある新・帝国主義。
国民も政治エリートたちも、とうていそのレベルには達していないようだ。
これは、左巻「情勢分析篇」、次は右巻「日本の針路篇」を読まなければ。

中央公論新社
Commented by antsuan at 2013-05-09 13:30
現代が帝国主義の時代であるという考えに大賛成です。

今の国民が明治時代の英智を絞った祖先と同じに日本人であることの意味をしっかりと国際的に認識して欲しいものです。
Commented by saheizi-inokori at 2013-05-09 15:39
antsuan、私は悲観的です。
単なるナショナリズムに走るのじゃないかと。
”共存共栄”の新帝国主義って難しそうですね。
Commented by kuukau at 2013-05-09 16:16
桃さんの幸せ、と何と遠くに離れた話でしょう・・
個人の幸せなくして国家とは言えません。
Commented by saheizi-inokori at 2013-05-09 18:04
空子さん、個人個人の幸せ、それをどうやって達成するか。
3・11以後国力の衰えた日本の隙をうかがうオオカミたちから国民を守る政権を選ばなければ。
官僚たちにも腹をくくって欲しいです。
Commented by junko at 2013-05-09 18:11 x
Ciao saheiziさん
分かりやすい言葉で、、クリントンそしてケネデイもそうでしたよね
それって、市民に歩み寄る一番のテクニックかつ、最低の国民にたいする礼儀であると思います

最近読み直した本に
自衛隊が合法であるか、ないか?を問うまえに
人間にさえ、抗体というものがあって、外敵から自らを守る機能があるのだから、国家として、攻めこむという理由ではなく
攻められたときに守れる最低限の機能を備えるのは当然のことであると、書いてありました
全くそう思います
Commented by saheizi-inokori at 2013-05-09 21:05
junko さん、自衛と攻撃の間にどういう線が引けるのか。
憲法が出来たときに吉田茂が「自衛も攻撃も線は引けないから9条がある」と言った、その気持ちを忘れてはならないと思います。
今日の国会では安倍が自衛のために他国を攻撃することはありえると言ってました。
それも正しい、だけどそれがどうした?
攻撃して得るものはあるのだろうか。
Commented by junko at 2013-05-09 23:26 x
線引きは可能であると思います
今のような悪質な政治家がのさばり続ける限りは無理ですけどね
Commented by saheizi-inokori at 2013-05-10 10:56
junko さん、自衛のための攻撃、民主主義を守るためという口実の攻撃、アメリカは常にそういう攻撃をします。
集団的自衛とは彼らと行動を共にすることです。
良質の政治家であっても。なかなか辛いところです。
Commented by cocomerita at 2013-05-10 15:57
極上!の政治家の出現を期待します

、、、って、、、無理か、、

Saheiziさん、やらない?
荷物持ちくらいならお手伝いします 笑
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by saheizi-inokori | 2013-05-09 12:04 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(9)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori