雪国長岡から来た噺家・扇辰が雪を語った

師匠の扇辰にとって初めての国立演芸場の独演会、二つ目の私も初めてここでしゃべります。
初物は寿命が伸びるというけれど、師匠と私と二人分、二乗で伸びます
嬉しそうな小辰、扇辰のちょいとしたエピソードを披露、先日は喜多八の独演会に出て喜多八の噂噺、どうやらこれが小辰のマクラのパターンになるのか。
噺は「一目上がり」
今日も元気に突っ走った。
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その扇辰
平成元年に扇橋に入門したときには、まさか国立で独演会が出来るとは、、
と語り、弟子入りを願ったら、すでに前座がふたりいるからと断られたので、その前座が二つ目になるのを二年待って弟子入りした。
やっと思いが叶ったと思ったら、先輩が「お前、二年前に断られたとき、翌日もう一度来れば採ってくれたんだよ」といった。
青春のだいじな二年をどうしてくれる!と笑わせた。
意志強固な男なんだ、と感心する隠居でした。

手塩にかけて育てた一番弟子(小辰)が、師匠の晴れの舞台でこともあろうに師匠のことをくそみそにいうとは、勘弁できませんね、、と、楽屋を向いて「お前のアレ、喋るよ」と言ってちょいとした小辰のエピソードをばらす。
仲のいい親子だ。

「あまり好き嫌いがない私ですが、雪だけは大嫌い」、扇辰は長岡の出身なのだ。
雪をめぐる母親の話などで笑わせたりして20分近いマクラはこの人では珍しい。
1月14日の雪は大変でした。
交通の発達している今でも大変だったのですから、昔はもっともっと大変でしたでしょう

「鰍沢」に入る。

江戸からきた新助、雪の山中で道に迷い、ようやくたどり着いた人家、やれ嬉しやと一夜の泊を乞うて、よく見たら昔吉原で一夜を契った熊蔵丸屋の月の戸花魁、噂では誰やらと心中したと聞いていた女がここにいた。

囲炉裏に薪を、ぺしっと折ってくべ、灰神楽になりながら火を熾し、ぶるぶるっと震え、入念に両手を揉みさすりながら火の饗応を受ける。

暗い部屋の中で火が熾るにつれて美しい顔が白く浮びあがって、その喉には月の輪型の傷跡がある。
鄙にこもったとはいえ未だ残っているアダッポさが凄みをくわえてなんともはや、、。

二人の仕草、会話、ぞくぞくする。
新助はお熊の薦める玉子酒に毒が入っているとも知らずに飲む。
新助の胴巻きにたっぷり金が入っているのを見たお熊は、その金で亭主と上方に落ちていこうと決心したのだ。

猟師の夫が帰ってきて、新助の飲み残した玉子酒を呑むリアリズム。
隣の部屋で寝ようとしていた新助はお熊と夫の会話を聞いて、這うようにして逃げ出す。
毒で痺れた体を励まして、身延山でもらった毒消しのお札を雪の塊を頬張って流し込む。
ようやく雪が降りやんで空に青く光る月が物凄い。
夫が死んだのは新助のせいだと、火縄銃をもって追いかけるお熊の、かすかな呼び声が少しづつ大きくなる恐ろしさ。

深い雪をかき分けて逃げる、そのままならないもどかしさ、恐ろしさは、俺の夢にときどき現れる。
逃げた先は鰍沢、はるか目の下には急流がさかまき、後ろにはお熊の火縄銃が迫る。

囲炉裏の火と、火縄銃の火、月、あとはモノカラ―の世界に展開する吉原花魁の恋と転落の物語、再起をかけた殺しの執念がもろくも潰えて、ええい!悔しい、空しい!、、囲炉裏の火が熾きたように燃え上がった女心は、憎み殺すことでしか収まらない?
あわれ、新助の命は!?
筋立ては分かっていながら固唾を呑んで聴く。

堪能しました。
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15分の休みのあと再び、扇辰「百川」
あの~、ちょっくら~ごめんくせーやし
ひゃくべっちゃす
ひえっ
顔は日本人だけど言葉は何を言ってるか分からない百兵衛さんと早飲み込みの河岸の若い衆が繰り広げる抱腹絶倒の喜劇。

扇辰の百面相もこれあり、会場は沸きに沸いた。
が、俺は「鰍沢」で充分満足したから、こっちはまあまあ。
終演後の階段を降りながら「この噺がこんなに面白い噺だとは知らなかった」と話している声も聞えたが。
Commented by kuukau at 2013-03-04 10:39
長岡へは花火を観に行きました。
雪国の大変さは昨日のニュースで。痛ましいニュースでした。
Commented by ほめ・く at 2013-03-04 11:38 x
必ず来ておられと確信していました。
高座も会の雰囲気も真に結構でした。
この会、これからシリーズ化されそうですね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-04 11:45
空子さん、「雪はいいなあ」なんて軽々しく言ってはイケナイノデス。
でも雪景色が好きなのだなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-04 11:46
ほめ・く さん、女性客の比率が高かったような気がします。
でも大人が多かったなあ。
Commented by 散歩好き at 2013-03-04 12:19 x
百川は四神剣、四神旗と五行説の話ですね。当地の神社の四神の置物を直すのにも大変苦労しました。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-04 13:49
散歩好きさん、「しゅじんけのかかえにん」、この誤解をわかって笑うためにはどうしてもマクラで四神剣のことを説明しなければなりませんね。
その説明ぶりで既に噺家の力量が問われます。
Commented by maru33340 at 2013-03-05 03:50
扇辰の「鰍沢」、いかにも良さそう...
ずっと昔に確かテレビで円生の「鰍沢」を聞いて以来他の人のは聞けないと思ってましたが、扇辰さんなら聞いてみたいです。
というより、寄席に行きたい!
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-05 09:34
maru33340さん、圓生のは定評がありますね。
扇橋のを聴いたことがあるのです、多分。
もっと淡々とやって凄さを感じさせたような記憶がある。
紀伊国屋ホールって覚えているのだから実体験だと思うのですが、最近はひとの噺や書いたものと混同が始まってます^^。
Commented by かおる at 2013-03-08 15:26 x
私もおりました!
扇辰師匠の「鰍沢」と聞き、脊髄反射で予約しました。
色白の師匠が耳と手先を赤くされて(実際は暑いから!?)囲炉裏にあたる風情はたまりません。大嫌いな雪ですが、その経験があってこそのリアリズムですね(^^)
翌日来れば良かったと言われたのは今から4、5年前とおっしゃってませんでしたか?入門して10年近く経ってから知った真実。言わないで欲しかった!でしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-08 20:56
かおるさん、脊髄反射のほかはどんな反射があるんですか^^。
酒を呑むところをやる噺を聴くと肝臓反射かな。
4・5年前でしたっけ、そこは聴き損じましたよ。
すぐに聴くのとどっちが頭に来るのかな。
Commented by かおる at 2013-03-09 22:14 x
脊髄反射:脳で意識しないうちに脊髄が中枢となって起こる反応。熱いものに手を触れたとき、瞬間的に手を離すなど。
いつもはお財布の加減や日時などをふまえて「行こうかな~」と言う感じですが、この会は何も考えず「扇辰」「鰍沢」を見て気づいたらチケットを買っていた…ということを言いたかったのです(^^;)
2年早く入ってたら喬太郎さんと同期じゃなくなってましたね。
巡り合せって面白いですね。
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by saheizi-inokori | 2013-03-03 22:20 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(11)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori