ない物ねだりの一之輔批判 一之輔独演会@博品館

マンションの玄関を出ると、霧雨が煙るなか金木犀の香り。
二階の俺の部屋の下あたりにあるのに、どうしてか部屋には香りが届かない。
自分の家の金木犀より歩いていて他所の金木犀に気がつくことのほうが多いのはどういうことだろう。

折りたたみ傘を開くのは面倒で木の下に移ってバスを待つ。
中古品を売る店にぶら下がっていた皮のベスト、安くてぴったりなので買ってしまった。
買ったもののいったい何時着るのか?
そうだ、今頃着まくるしかない。
ユニクロを着るように気軽に着てやろう。
迷った挙句にカミさんの勧めでその上にも一枚羽織って出て三好青海入道。
内と外、昼と夜、日により時間により暑かったり寒かったりの毎日だ。
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恵比寿から日比谷線で銀座へ。
銀座通りを歩いて博品館、時間があるので一階のパーテイグッズとかいろいろ売場を冷かす。
とても小さく畳めるボールペン、340円、欲しかったけれど、我が家で使われないまま、じっと出番を待っているボールペンたちのことを思い浮かべて、俺もじっと我慢の子。

一之輔、昨日は市馬、今日は喜多八、明日は一朝をゲストに三夜連続のネタだし独演会。
博品館というと喜多八という感じもあって二日目を予約してあった。
女性客の方が多いか、ほぼ満員。

ろべい「初天神」
東京農工大出身のことなどをマクラ。
だいぶ上達したし、面白くしていると思うが、その「面白くしている」ところが俺にはちょっと、、。
まあ、こういう変な客のことを意識しなくても笑ってくれる客は多いからよいのだ。
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一之輔「あくび指南」
いろんな客がいて、ネタだしをすると予習してくる人がいるんだって。
「明烏」、文楽と志ん朝、談春と聴き比べてきて、「ぜひ甘納豆食べることろやってください」なんていうんだって、俺の能鑑賞よりすごいな。

年増のお師匠さんを目当てにあくびを習いに行く八五郎の造型にちょっと現代的な色合いを加えたり、”工夫して”(八五郎がヘンテコなあくびをして、師匠に咎められると”工夫しました”という)いたが、どうもいらざる工夫と感じた。
この噺、あくびをまじめに習うという、落語ならではの設定そのものが面白いのだから、やる方も淡々とそのバカバカしさを見せたら面白がる人(俺みたいに)は面白いのだ。
いろいろ工夫して面白くやってみせるのは、ほんらいまじめに習うことを茶にするときにやればいい、「茶の湯」みたいに。

もっとも、こういう”工夫”を離れては一之輔の芸は成り立たないのだから(少なくとも今のところは)、それが嫌なら聴きにいかなきゃ良いだけのことなんだけど。
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喜多八「ぞめき」
楽屋で煎餅を齧って前歯が二つに割れてしまって明日治療する予約したけれど、これからちゃんと喋れるか、万一に備えて、さすが博品館ですね、ありました、といって懐からアロン・アルファらしきものを取りだして見せる。

毎晩吉原通いの若旦那、勘当一歩手前の二階に蟄居。
たいくつで外出自由の猫を羨んでからかったり、
ああ、イキテエなあ!
古渡り唐桟、筒袖(何時でも喧嘩ができるように)、ヤゾウに決めて、吉原に行って格子越しに女郎を冷やかし、馴染の女が金まで都合してくれるからと二階に上がり、酒を飲むの飲んじゃいけないのと喧嘩、下からあがったオバサンに引き分けられて仲直り、寄せ鍋をつつく、、。
すべて妄想、「ああ、イキテエなあ!」を頻発しながら一人芝居、吉原に行ったことのない俺にオバサンの姿まで見えるようだ。
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一之輔「富久」
ネタだししたのはこの噺。
年の暮れになると前座にやるお年玉のことが気遣われて腹立たしいとクスグリをマクラにすぐネタに。

天才・一之輔でももてあますネタ、なるほどこれを自在に聴かせた志ん生、文楽は凄かったと再認識。
何処といって指摘する瑕疵はなく、笑いも多く、立派に聴かせたのだが、、。
ひとことで言えば久蔵の人間が迫ってこなかった。

久蔵がしくじった旦那の住む久保町のあたりが火事だから、駆けつけたら詫びが叶うかもしれない、と寝ている久蔵を起こしてやる長屋の衆、火事で焼け落ちる久蔵の留守宅に飛び込んで大神宮様や鍋釜を運び出してくれたカシラなどの人情が温かい。
Commented by ジュ at 2012-10-19 14:12 x
最後のFoto,ホトトギス・・・。公園で、ですか?ご自宅?
Commented by saheizi-inokori at 2012-10-19 15:02
ジュさん、散歩途中のマンションの、あれはなんというのでしょう、建物周りの植栽のなかにありましたよ。こういうのを見つけることが散歩の楽しみです。
Commented by at 2012-10-19 15:45 x
人情はどこへ行ってしまったのか?
Commented by saheizi-inokori at 2012-10-19 21:15
蛸さん、こういう人情は今の世では余計なおせっかいと言われてしまうのでしょうね。なんか侘しいですね。
Commented by ほめ・く at 2012-10-21 15:13 x
一之輔の「富久」、2年ほど前の独演会で聴きましたが、近年では水準をいっていると思いました。
「富久」はある年齢以上にならないと難しいのかも知れません。
ワタクシ的には文楽と志ん朝で、甲乙つけ難いところです。
Commented by saheizi-inokori at 2012-10-21 18:35
ほめ・くさん、久蔵をどう描くか、ですね。
人生の辛酸が必要なのかもしれないなあ。
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by saheizi-inokori | 2012-10-19 11:52 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori