俺はいったいどんな読み方をしてきたのか 渡辺京二「娘への読書案内」

世界文学全集なるものを全巻予約して揃えたのは中学時代、母は貧乏な家計の中でよく決心したものだ。
河出書房、すでに新社になっていたか、緑色の装丁が素敵だった。
毎月配本になったのを本屋が配達してくれる。

読んだ覚えがあるのは「戦争と平和」「風と共に去りぬ」「罪と罰」「赤と黒」、、あとはどんな本があったか思い出せない。
そういえば全集は母が持って歩いたと思う(俺は独身寮暮らしが続いた)が今はどこにあるのだろう。
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この本は娘Rへの手紙の形で
現代の若い読者のために書いた
世界の文学への一つの案内である
裏表紙にこう書いてある本書は同時に渡辺京二の人間形成・人間・世界理解の物語でもある。
あったこともないが、渡辺京二に頭が上がらない俺には見逃せない本だ。
文学というものを、人間が人間として形成されるうえで非常に大切な働きをするもの、あえていえば不可欠のものとして考えていた
ひとりまえの娘の親となった今は、もう文学をそんなものとしては考えていないと渡辺、俺もかつて文学を語らずしていっぱしの人間と言えるかの思いもあったのだ。

しかし同じような思いを抱いてもその実情は月とスッポン、雲泥の差がある。
俺は「教養としての文学」、ブランド物のファッションに憧れる女性と変わるところのない、ミーハー的な文学志向だった。
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カフカ『変身』は前衛的な実験小説などではなく「自分の心の奥底にある家族に対する強烈なわだかまりを、忠実に表現した」家庭小説であり、『息子と恋人』を書いたロレンスは、「女性を、闇つまり自然を代表する存在」と考え、この闇に深くひきつけられながら、それとたたかわねばならなかった、ウルフの『天使よ故郷を見よ』は、「眼の前を通過するさまざまな生の断片をやりすごすことができず、その断片的な心象から、見知らぬ生、見知らぬ世界へのなまなましいヴィジョンが育ってきてしまう」、「空間に対する飢渇」に囚われた男の物語で、それはアメリカ人の放浪の運命をたくみに象徴した作品だ、、。
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作品ごとの見出しにいわばその小説のキャッチコピーが記される。
たとえば、スタンダール『パルムの僧院』は「情熱によって行動する人間の気高さ」、トルストイ『戦争と平和』は「歴史を巨大な日常として」、シリトー『屑屋の娘』は「庶民のなかの”生”の瞬間」、マードック『切られた首』は「現代人の愛の荒野』、ソルジェニーツィン『マトリョーナの家』は「権力は民衆の日常を奪えない」、カルペンティエール『失われた足跡』は「高度の都市文明への問いかけ」、、
北一輝を語り、失われた江戸時代を懐かしみ、平気で木を切ってしまう現代人のありようを嘆き、水俣病を闘い、人類史を説く渡辺の問題意識が見事に反映しているような気がする。
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19世紀から20世紀、中南米文学、取り上げられた23編、ほとんど俺は未読である。
一度だけ読んだ「戦争と平和」について渡辺は
R・・・、私はこれで、この小説を五回読んだ。死ぬまで、あと一度は読みたいと思っている。この小説は、いわば人類史の奇蹟だと思う。人類は二度とこんな小説を生むことはあるまい。
と語っている。
サテどうする?お前は、佐平次よ?

朝日文庫
Commented by at 2012-04-06 11:54 x
小学生の時にはすでに、ウチにもあった。誰のためだったのか知らんけど、
その頃は挿絵しか見なかった。
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-06 13:28
蛸さん、挿絵入りですか、豪華ですね^^。
Commented by kaorise at 2012-04-06 14:29
読んでない本が多くて嬉しいですね。これから読める楽しさがあるのだもんね、、
怒りの葡萄ははいっていないのかな?
わたしは人によって物語の表情は違うもの、成長に応じて変わるところがいい、と思っているので、ここまで解説されちゃうのは微妙かなあ、、。
自分の成長にあわせて古典を読み解く楽しみってあると思うの。

うちにもありましたよ、世界文学全集。
紅い表紙で文字組みが小さくて読みにくかった!
中学生のときにそこから嵐が丘を読みましたよ〜意味不明でした^^
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-06 15:50
kaoriseさん、そうですね。自分なりのそのときなりの読み方が一番ですね。
しかし他人の、とくに尊敬している人の読み方にも興味があります。
怒りの葡萄は入ってなかったです。
文字の小さい大人の本を読むのってわくわくしましたよ、今じゃ閉口ですが。
Commented by きとら at 2012-04-06 19:17 x
 挙げられた作品群で読んだのは『変身』だけです。シリトー、マードック、カルペンティエールなんて初耳ですよ。しかし別にコンプレックスは感じませんねぇ。なぜなら、大西巨人『神聖喜劇』と高橋和巳『邪宗門』を読んでますから。(笑) この二作品、世界文学の場に出ていくことはないと思います。しかし傑作ではありますね。
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-06 21:48
きとら さん、私は「神聖喜劇」も一度しか読んでないです。
さて「戦争と平和」にするか「神聖喜劇」にするか、どっちも読まないんじゃしょうがないですね^^。
最近の世界文学全集に「苦界浄土」が入っているということを聞いた覚えがあります。
Commented by tocotoco-o3po at 2012-04-07 00:06
こんばんはです~^^

世界文学全集を揃えたお母様は素敵ですね!
きっとsaheiziさんに必要だと思って揃えてたのでしょうね。

はやいうちから色々な本に出会うことってとても大切なことなのでしょうね!
私は出会っていない本ばかりです。
出会っていない世界があるととてもワクワクします^^

最後の月夜のお花の写真がとても綺麗です~春はいろいろな命がうまれる素敵な季節ですね^^
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-07 08:54
tocotoco-o3poさん、宵の月を前にしているのは白木蓮です。
いままで一人で頑張ってきましたがようやく桜に後を譲って散っていきます。
Commented by hiranuma-nasubi at 2012-04-07 10:22
佐平治様はきっと、もっかい読むでしょう、戦争と平和と、資本論。
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-07 11:52
hiranuma-nasubiさん、資本論は絶対に読まないでしょう。
戦争と平和は読みたいです。
Commented by k_hankichi at 2012-04-07 12:24
僕もこの本を読みたいです。さらに取り上げられた世界文学も。娘にも薦めたい。
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-07 14:33
k_hankichiさん、私も何冊読めるかわかりませんが、楽しみたいです。
Commented by poirier_AAA at 2012-04-07 16:27
そういえば実家にも世界文学全集がありました。買ったのは親ですが、読んだのはわたしだけです。夏の昼下がり、肘の内側や曲げた膝の裏側にじっとりと汗をかきながら、夢中になって細かい字を追いかけたことを思い出しました。繭に包まれていたような幸せな思い出です。
Commented by junko at 2012-04-07 16:59 x
Ciao saheiziさん
本を読むのは大好きだけど、なぜかこの古典とも呼ばれる作品が苦手で
読んでない本がたくさんあるし、きっとこれからも読まないと思うけど...苦笑

読書って人間形成に非常に重要な作業であると思っています
少なくとも、私の形成には非常に役立っています

↑のおでんに 言葉なく ただ涎のみあふるる...  字あまり
Commented by tona at 2012-04-07 19:38 x
中南米のは全然読んでいませんが、その他の長編、忘れていて、私の身には何にもなっていないと思うのですが、もう1度読んだらどのように捉えることが出来るか読んでみたいです。しかし根がなくなってしまって実現するか?
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-07 23:28
poirierさん、そんな思い出をA君やB君にも!
私はトイレ(水洗じゃない)の匂いすら思い出しますよ^^。
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-07 23:31
junko さん、こちらに何もなしに古典だからと言って読んでもあまり人間形成には役立たないのではないかと思います。
悩み、苦しみ、歓び、疑問、、そういうものがあって初めて古典はこたえてくれるのだと。
このおでん屋は関東、関西、名古屋の三つの味を別々に出してくれるのですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2012-04-07 23:32
tona さん、私は根以前に登場人物の名前を思い出せないのではないかと心配しています。
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by saheizi-inokori | 2012-04-06 11:25 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori