懐かしの「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」 デイヴィッド・ゴードン「二流小説家」
2011年 09月 20日
少ない小遣いの中から無理して買ってもち歩くと俺までカッコ良くなったような気がした。
とくに「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」は、「お手許に綺麗なままの本をお届けしたくこんな簡単な函をつくってみました いわば包装紙がわりです お買い上げ後にはお捨て下さい」と書いてあるボール紙の箱に入っていたりして(これはその後なくなって代わりにビニルカバーで包まれるようになった)、俺はなかなか捨てられかったのだが、やはりもち歩くには本を剥きだしにした方がカッコいいので結局捨てた。
小口は黄色、小さい活字、表紙は抽象画で下部は黒字に白く「A HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK」と抜かれていた。
洋書の雰囲気がしたのだ。
創元社などからも文庫版でミステリは出ていたが何故かこの新書版(普通の新書より細長かったような気がする)で読むと”本格”という感じがしたから俺もミーハーだ。
大学に入ってからも授業などに出たこともない俺は飯もろくすっぽ食わずにアルバイトとグータラ生活をしていたのだが、たまに金の余裕があると「ポケットミステリ」を片手に「ピー缶」を片手に喫茶店に入って暖房・冷房の恩恵に与ることがあって、そのときの気分は「栄華の巷低くみて~」だったからつくづく軽く薄い学生だったのだ。
社会人になってからもディック・フランシスの競馬シリーズなどはほとんどこの文庫で読んだ。
今までに読んだ「ポケットミステリ」を全部取っておいたらなあ、などと思うこともある。
そんなにも愛した「ポケットミステリ」に対する熱も覚めて新潮文庫や文春文庫など相手かまわず浮気を重ねるようになってずいぶんになる。
前に紹介したデイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」 から装丁が変わった(活字も大きくなった)のだ。
それはどこかの本屋の書棚にそういうことを書いたポップと共に「卵、、」が置いてあって知ったのだが、そのときに本書も並んでいたような気がする。
買いたかったけれども1900円という値段にしり込みして「卵、、」だけにした。
そうしてもうこの本のことは忘れていたらあちこちの書評でずいぶん評価が高い。
寝た子が起こされて図書館に予約したのが5月頃だったか。
そうしてそれも忘れていた9月の半ばになってやっと「ご用意ができました」というメールで再び寝た子が起こされた。
作家はコロンビア大学大学院創作学科修了後、映画、出版、フアッション、ポルノ業界などでキャリアを積んだ後、本書で華々しくデビュー、本書はアメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞の候補作となった。
”ぼく”はシリーズ物のミステリ、SF、ヴァンパイヤ小説、ポルノまがいの人生相談などいくつものペンネームを使い分けて辛うじて食いつないでいく二流作家だ。
小説中に彼の書いたいろいろなジャンルの小説の一部が挿入されるのがご趣向でちょっと「文体練習」の感じが楽しい。
その”ぼく”にビッグチャンスが舞い込んだ。
NYを震撼させた連続・猟奇(ヒドイ)殺人鬼から告白本の執筆を依頼されたのだ。
ただし条件があって殺人鬼に来たたくさんの女性からのファンレター(そういう時代、それとも人間とはそんなもの?)の出し主に自分の代わりに会って話を聞くなりなんなりして、それを題材にポルノ小説を書いてくれ、一編につき一回告白をしよう、という。
新人作家、自分のキャリアから得た知識経験、もてる才能、ありったけを注いで技巧を凝らした力作だ。
一応本格謎解きといえるのかな、途中で読者に挑戦みたいなところもある。
もちろん俺にはまったく見当がつかなかったが。
グロもあるから昨今流行りの、言葉の細部に過剰ともいえる反応を示す繊細な方は自己責任でお読みください。
エロもあるけれどこっちはそういう心配はいらないかな。
青木千鶴 訳
手を伸ばしておりました(笑)
ペーパーバックの匂いをそのまま日本語の本にしたようで。
父の本棚に数冊あったのを懐かしく思い出します。
黒い帯にHAYAKAWAの字体と文字のアキ具合がおしゃれです。
この字体が好きで、昔のフォトショップで使っていたけど
新しいのには入っていませんでした。
もう流行らないのかもしれないけど、いい字体だと思います。
人間の闇をどう描くかの違いですが。