”想定外”とは原発建設が不可能になる”想定” 田中三彦「原発はなぜ危険か」(1)

6日の衆院経済産業委員会で共産党の吉井議員の質問に答えて、寺坂信昭・原子力安全・保安院院長(こんな人いたんだ!)、斑目春樹・原子力安全委員長、鈴木篤之・前原子力安全委員長(現・日本原子力研究開発機構理事長)が、電源喪失事故を想定外としていた認識が甘かったことを反省・陳謝した。
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遅きに失した、と云っても、彼らは今回の事故が起きなければ反省することもなく原子力ムラの領袖として自足した余生を全うしたのだろう。

班目委員長の「二度とこのようなことが起こらないようにしたい」と云う言葉は要警戒だ。
二度と起こらないようにしながら原発は推進したいと云う意味が透けている。
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1989年に出版された本書の中で田中は「冷却材が喪失してECCS(緊急炉心冷却系)も機能しないような事態になり圧力容器、その外の格納容器が持ちこたえられなくなる」という、まさに今回の事態の想定はされていなかったことについて次のように書いている。
事故をどのように想定するかは、あくまで主観的な「選択の問題」である。別な云い方をすれば、想定事故には、意識的であれ、無意識的であれ、ある種の価値や時代精神が明確に投影されていると考えねばならない。すべての壁が崩壊するような最悪事故が想定されない理由は、おそらくたった一つ、「そのような事故想定は原発の建設を不可能にする」ということだろう。
言葉を換えれば、安全評価で採用されている重大・仮想事故とは、原子力発電所を建設するという目的を不可能にしない範囲で「こんな事故を想定してみました」ということでしかないと思われる。
そう言えば上の班目委員長がどこかで「原発のリスクはどこかで割りきらないと成り立たない」というような発言をしていたのではなかったか。

いくら反省・陳謝しても「原発建設を可能とする範囲での“二度と起きない対策”」をもとに新たに原発を推進することは許されない。

さらに田中はこういうことも云っている。
原発の技術・知見は年々進歩改良されて行く。
敦賀1号機が作られたときの設計の考え方はこの発電所が稼働したときの考え方とは既に相いれないものとなっていた。
たとえばこれから敦賀1号機とまったく同じものをつくろうとしても、安全性という視点から国はそれをけっして許可しないはずだが、いわば、国みずから否定する原発が今日多数運転されている”現実”は、けっして忘れられてはならない。
建築の世界では「既存不適格」と云って建設時に適法だった建物がその後の法改正の決めには抵触しても、建て替えないでも良いという考え方があったような気がする。
原発の場合は、一度でも大きな事故を起したらそれでおしまい、既存不適格というわけにはいかない。
本気で絶対に安全な基準をつくるということはすなわち原発の存在を否定することになるのではないだろうか。
もし、そういうものが出来たとしても、その基準で現存する老朽原発の実態を見直したら運転停止をしなければならなくなるのではないか。

そうすることが“二度と起きない、起さない”ことになるのだと思う。

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副題「元設計技師の証言」
岩波新書
Commented by tona at 2011-04-07 19:52 x
「二度とこのようなことが起こらないように」原発を推進したい、ですか。本当にそういうように思えます。
もうやめましょうという人はあまりスタジオには招待されないような気がします。福島がこんなになっても。
Commented by saheizi-inokori at 2011-04-07 21:21
tona さん、一度味わった安楽を棄てるのは辛いのでしょう。
しかし、、。
Commented by at 2011-04-07 22:12 x
全世界の命を危険にさらして、言い訳は「想定外」で、
反省・陳謝ですまんで、世界中から訴えられるで、
そんとき東電が国営化になってたら.....、おそろしい。。。
Commented by saheizi-inokori at 2011-04-07 22:34
蛸さん、なんだかこの頃書けば書くほど、犯人は彼らだけではなくて私も含めた電力享受派のような気がして辛いです。
今でもフクシマは特別な事故で原発は必要だと思っている人の方が多いのではないでしょうか。
Commented by まりまんどな at 2011-04-08 03:14 x
 非常に苦しいですが、犯人は私も含めた電力享受派だったと
思います。 私なんて、原発の近くで色々な事を見聞きしてきた
にも関わらず、見てみぬふりしてきましたから。

東電は多分リスクを否定し、リスクに備えない事が
原発の安全性を誇示する事だとそう、考えていたのでは
ないかと思います。 原発のリスクヘッジを真剣にしようと
する人は”原発反対派”のカテゴリーに入れられて、遠ざけ
られてきた、 反・推進の愚かな二元論に陥って、目の前に
ある不備に気付かなかったんですかね・・。
今日、怒りにまかせてブログを書いてしまいましたが、現在
進行している海水汚染、土壌汚染は陳謝された所でどうにも
なりませんよ・・・実際問題。
Commented by saheizi-inokori at 2011-04-08 10:13
まりまんどな さん、次世代かそのまた次世代のためにやれることをやりましょう。
微力でも、少なくとも違うベクトルで動きたいと思います。
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by saheizi-inokori | 2011-04-07 11:22 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori