贅沢とはイボがたくさんあること! 「静かな家」 車谷長吉 (文春文庫 「金輪際」所収)
2005年 07月 07日
「贅」という字には、イボという意味があって、イボには無駄なものという意味があるので無駄なことをたくさんするのは、すなわち贅沢なことだって。のっけから”頃日”なんてほとんどお目にかからない言葉が出てくるこの短編はイボが全身にある少女や高所恐怖症の男の思い出に絡めて人間の哀しさを描く。
登場する人物が実在感のないようなアヤシの世界に住む人のようでいて、そういうところは俺たちにもあるのだと思わせる。
イボだらけの少女、かわいそうで、かわいそうで。しかし、そういう少女が”贅沢”の化身だとしたら。著者の人間に対するアイロニー?
しかしなんと言ってもこの小説の主人公は表題どおり、静かな家、なのだ。そこに住む人たちを包容し見守りながら棲む人がいなくなってなお静かに立ち腐れていく家なのだ。