怖くて優しい人間ども 素晴らしかった「第507回落語研究会」

先月は出演者がちょっと気にいらなかったこともあって欠席したから二月ぶりの落語研究会。
半年分のチケットが一冊の綴りになっている、その最後の一枚を切りはなして貰う。
一年分をまとめて予約するのが寒い3月だったか、殆ど徹夜で並んで取るのだ。
俺はお仲間と交代で並ぶつもりで作戦を立てていたのに風邪でダウン、皆さんに取って頂いて幸せな毎月を送っている。
怖くて優しい人間ども 素晴らしかった「第507回落語研究会」_e0016828_1182863.jpg
(国立劇場前、やはり代替機のカメラは、、)

開口一番は桂才紫「黄金の大黒」
大家にお招ばれする長屋の衆が、みんな呼ばれるのは店賃の催促じゃないか、と戦々恐々。
先日書いた「船徳」も、船頭連中が親方に呼ばれると、まずお小言じゃないかと考えて、思い当たるフシを白状し合う。
シモジモは何も変化のない毎日が一番、変わったことと言ったらまず、悪いことを考えてしまうのが情けない。
そうはいっても店賃の滞納が2カ月や3カ月は当たり前、親子三代にわたって払った覚えがない、なんて野郎がいるんだから、変化のない毎日も捨てたもんじゃない。

柳家三三「短命」
ちょいとシモがかった小噺、そのシモがかったところをしつこくやると面白くないのだが、三三、さすが。
伊勢屋の旦那が美人の奥様ゆえに腎虚(わっかるかなあ?)となって短命になる所以を説明するクダリ、やっと納得して家に帰ってオッカアに飯をよそってもらって、自分は長命だと虚しく納得するクダリ、よく聴くやり方よりあっさりと、しかもほどよい色気も感じさせた。
ネタが「短命」だけに噺も短かった。
怖くて優しい人間ども 素晴らしかった「第507回落語研究会」_e0016828_11102250.jpg
(マンションの玄関の床で短い命を終えようとしていた。そっと花の莚に)

おまっとさん!イッチョウ懸命の一朝「祇園祭」
江戸っ子三人の珍道中、粟田口で「湯」の場所を訊いても、ところ変われば品の名変わるで「風呂屋」と云わなきゃ分からないのクダリもやって、蕩尽して京都に残った留公が京都の男と土地自慢を始める。
祇園祭と神田祭のお囃子や神輿の掛け声を互いに口で実演しては腐し合う。
前の柳朝の十八番、弟子の一朝は笛も巧み、自分の工夫を加えている。
抑えた話ぶりなのに江戸っ子の啖呵と威勢のいいお囃子が快かった。

前に書いたがこの秋真打に昇進する落語家5人の「うまいと思う噺家」ベストワンに輝く扇辰が「阿武松」
賭博事件ですっかり有名になった相撲部屋を興した6代目横綱の若き日の物語だ。
オマンマを食い過ぎるからとセコイ親方に破門されて、戸田川に身を投げて死んでしまおう、その前にこの世の名残に腹いっぱいオマンマを食おうと食いまくる小車(後の阿武松)を旅館の主が面倒をみている錣山(しころやま)に預ける。
やがて、かつてのセコイ親方とも対戦し、もちろん難なく勝って、長州公の召し抱えになり横綱になりましたとさ。
たったそれだけの噺を、ゆったりと晴朗な声で語る。
どちらかというと小さな体の扇辰の周りに大きなお相撲、いやそれよりも太っ腹な旅館の親爺と人を見る目のある親方たちのオーラが立ちこめて、春の日差しを浴びているように気持ちがいい。

一年を十日で暮らすいい男
国技館たった二人にこの騒ぎ

いいねえ、歓声が聞こえてくる。
相撲は相撲で世の中を騒がして欲しいものだ。

第485回・落語研究会でやった「紋三郎稲荷」第358回・花形演芸会での「鰍沢」などでも俺は扇辰に唸っている。
本気で追っかけなきゃ。
怖くて優しい人間ども 素晴らしかった「第507回落語研究会」_e0016828_11133177.jpg
(飲むのがもったいなような、分に過ぎたワインを頂いた)

弟子の蜃気楼龍玉(「夏どろ」の弥助)の真打披露寄席(鈴本)から駈けつけた雲助が「真景累ヶ淵(豊志賀の死)」
圓朝創作の長い噺の一部。
美人で固いと評判の富本の師匠・豊志賀がひとまわり以上も年下の男に惚れて全てが狂いだす。
若くて男好きのする弟子にあらぬ嫉妬の炎が嵩じて顔に腫れもの、やがて瀕死の床に。
苦しい息の下から嫉妬に歪んだ恨みやつらみ、ねちねちじくじく、怒るかと思えば謝り、
私が死ねばおまえが楽になる、だから死にたい、
言ったそばからこのまんまじゃ死ねやしないと泣く。
毎晩責められた男はたまらず逃げ出すが、、。

生きている女の怨念、妄想が怖い。
幽霊より生きてる人間こそ怖い。
幽霊が怖いとしたら、その後ろに生きていた人間の怨念を視るからだ。

今日の出演者は揃って無駄のない骨格のしっかりした噺ばかり。
先月一回パスした落語研究会、二回分以上の満足だった。
Commented by c-khan7 at 2010-10-01 12:19
上の人から呼ばれて、良い話を想像する人は少ないですよね。
過去の自分を振り返り、何を言われるのか思いおこしたりして。最後が累ヶ淵とは、渋い〆でしたね。
Commented by saheizi-inokori at 2010-10-01 12:35
c-khan7 さん、上司が、それも一目置いている上司が休みの日はなんとなく心が晴れ晴れした、若き日を思い出しました^^。
Commented by kaorise at 2010-10-01 16:29
さ、最後のはなし怖い、、アホかって感じもあるけど、、
こういう煮え切れない怨念を持つのは、恋愛で腹をくくった事のない結果のような気がします。
私をわかってとか、思いやりを持てとか、そういわなきゃいけない相手とつきあってるのはあんたですよ、と言いたいけど、、そんな事いうとこういう人はまた恨むのよね〜
くわばら、くわばら!
Commented by 小言幸兵衛 at 2010-10-01 18:24 x
扇辰は、9月17日の白酒との二人会の二席目、迷いながら客席の拍手で二者択一でこのネタをかけました。
もしかすると、落語研究会のための稽古をあの会でするように客に思われるのを、潔しと思わなかったから客席に委ねたのかもしれません。
しかし、あの日も良かった。特に板橋の旦那(橘屋善兵衛)がいいですね。
一緒に扇辰の追っかけしますか(笑)
Commented by saheizi-inokori at 2010-10-01 18:47
kaorise さん、男は思いやりもあるんですが、なんせ死に瀕して錯乱状態ですね。
この噺は延々と女と男の業みたいなものを怨み、幽霊でつないでいくようですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2010-10-01 18:49
小言幸兵衛さん、色気のない追っかけコンビ、いいですね。
板橋の旦那もいいし、錣山もユーモアがあってよかったです。
Commented by みい at 2010-10-01 20:24 x
この蝶saheiziさんのおかげで元気になったでしょう^^。

saheiziさんのブログ拝見してると、わたしも落語好きになってきました(笑)寄席連れて行って下さい!なんて^^。
Commented by saheizi-inokori at 2010-10-01 21:53
みい さん、元気にはなりそうもなかったなあ。
最後の莚です。
寄席、東京においでの際はどうぞ。
ルナちゃんはだめですが^^。
Commented by 旭のキューです。 at 2010-10-02 09:15 x
1回パスして、2回以上の満足がわかります。得した気分ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2010-10-02 10:43
旭のキューです。さん、がつがつしない方が良いのかもしれない^^。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2010-10-01 11:26 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori