素晴らしい江戸の長屋生活 第504回「落語研究会」
2010年 07月 04日
今回の「夏どろ」にちなんだ「何にもない長屋」という文章、読んでいて楽しくなるから長くなるけれど全文載せます。
幕末にやってきた外国人は、江戸時代の庶民の住まいに家具が無いことに驚いた。彼らから見ると、まさに何もない家だったのである。しかし、貧しくはない。人々はみなほがらかでよく笑い、おいしいものを食べて酒も飲み、毎日風呂にも入る。長屋には共同トイレ、井戸でくみ出す水道、ごみためが完備されており、各家にはかまどがある。押し入れが無いので、朝になると布団は畳んで枕屏風で隠す。衣類はなげしにかけ、使わないものは風呂敷に包んでおく。食器入れは無いが、茶碗と椀と箸と盆があれば食事はできる。鍋、釜、すりばち、すりこぎ、柄杓、包丁が棚に載っている。箒と雑巾で掃除は完璧だ。よく引っ越しをするが、何回かかついで運ぶか、あるいは大八車一回で移転は完了。火事で焼け出されてもあまり悲観しないのは、この簡素な生活ゆえである。いつでも再出発できた。なんとなく我が子ども時代の生活に似てる。
深川の江戸資料館や両国の江戸博物館にも長屋の様子が再現されているがまさに田中の書く通りだ。
それでまず馬吉が「夏どろ」。
ハギレよく爽やかにやったけれど先日弥助の「夏どろ」を感心して聴いたばかりだから比べられたら可哀そうだ。
うまい人とそうでもない人を比べて聴くとこの噺のツボが分かるような気がする。
泥棒と長屋の男のやり取り、「その親切には涙が出るほど嬉しい、、が、、」の繰り返しをいかに飽きさせず聴かせるか、二人の人物が生き生きと描けるかだ。
白い上下でたい平が「花見小僧」。
まさか固くなったわけではないだろうが視線が横に向いちゃってのらない出だし、後半彼らしいくすぐりを連発してやや場内を沸かすものの、全体としては、どうもね。
前はもっとうまいと思っていたのに、まさかあの座布団番組のせいではなかろうが。
嬉しいなあ、連日の「梅の栄」の出囃子にのって、喜多八「鰻の幇間」だ。
売れない野ダイコ、うまいんだね。
前に談春が力いっぱい新劇のようなやり方の同じ噺を聴いたが喜多八は軽妙にして野ダイコの哀愁を漂わせる。
捕まえた旦那がトンズラしたあと、一人残って店の女相手に「こっちをお向き!」を連発しながら、部屋の汚さ、漬物の情けなさ、床の間の掛け軸が無くて日焼け跡だけが残ってるところ、酒のまずさ、「こっちをお向き!もうすぐ終わるから」、筋骨隆々、百戦錬磨、鰻の雷電為右衛門、噛み切れない鰻、、喜多八独自のギャグも入れて本当なら腹が痛くなるほど笑わせるところ、そこがもう一つ爆発しなかったのはどうしたことだろう。
もちろん平均点は遥かにクリアしてるんだが期待値が高いからなあ。
落語家になる前は関取だった歌武蔵が巨体を運ぶと
今日は皆さん、私に訊きたいことがたくさんあるでしょう。どこから話していいか。と云っといてサッカーの話題、そうじゃないだろ、すかさず
あれはチクったんですね、そうしたら、えっ!うちの部屋にもいたの~!、、あっ(楽屋を向いて)これカットしてください。噂です噂。さっと切り上げて「鹿政談」に入る。
江戸の名物、「武士に鰹、大名、小路、生鰯、茶屋、紫、火消し、錦絵、火事に喧嘩に中腹、伊勢屋、稲荷に犬の糞」、なぜ犬の糞なのか?
犬公方のお犬様政策のせいだ。
奈良の名物は「大仏、鹿の巻き筆、あられ酒、晒し、奈良漬け、奈良茶粥、春日灯籠に朝の早起き」、で何故「朝の早起き」か?
鹿を殺すと死刑、だから早起きして家の前で鹿が死んでいないかをチエックした。
実直な豆腐屋がキラズ(おから)を食っているのを犬だと思って割木を投げつけて追い払おうとしたら手先が狂って当たって死んでしまう。
しかもよく見たら犬にあらず鹿ではないか。
名奉行が豆腐屋を救うために知恵を出すというお噺。
肝心の奈良では鹿を殺すと死刑という説明が抜けたのがご愛嬌だったが他は分かりやすく楽しい噺だった。
久しぶりに聴いた歌武蔵、ずいぶんよくなったような気がする。
頭のいい人だな。
トリはさん喬「白ざつま」。
「菊江の仏壇」ともいう上方落語の大ネタ。
俺はテープ(誰のだったか)を持っているが高座で聴くのは初めて、長井好弘の解説によれば「やりたくない噺」「聴きたくない噺」どっちも上位入賞間違いないという”難しくて面白くない”噺だ。
美人で気立てが良くて家事から家中の采配、夫への気配り、何をとっても非の打ちどころのない嫁さんを、非の打ちどころがないのが鬱陶しくて他所で遊びまわるバカ旦那。
嫁さんが瀕死の状態で実家で寝ているのに見舞いにも行かず挙句の果てに芸者・菊江を引きいれてドンチャン騒ぎ、その間に嫁さんは死んでしまう。
ね、聴きたくないね。
敢えて難曲(とは言わないけれど)に挑んださん喬、さすがに熱演、場内シ~ンと聴きいった。
うまいものだ。
でも、なんども書いたが俺はさん喬はもっと脱力して滑稽な味を出した方が好きなんだなあ。
なんだか今日はパンフレットを褒めた割に点数が辛かったかも。
楽しい一夜ではあったんだよ。
あーーーーまたかーーーー
脂の乗ったおいしそうなお刺身
夏はね――
火を使いたくないから、お刺身や冷や奴があればな――と思う毎日
田中優子さんの記事、おもしろい
それでわかったことがある
こっちの人って何でも、中に仕舞っちゃうの
だから台所もがらーん
だってスポンジも洗剤も仕舞っちゃうんだから
それに比べて、日本のお台所、鍋もお玉も出しっぱなし
だから外人にとって日本の台所ってとても面白いらしい
それってこっから来たんだねえ
要するにしまい込む文化がない
ふ~~~ん
でも今となってみると、、そういう生活が懐かしくも羨ましくもある。
余計なもの(私含む)と亀しかない長屋って感じなのです。
近づくようにはしたいけれど。