暴力は優しさの一表現か 映画「息もできない」

冒頭から殴る蹴る。
まさに息もできない。

父親の家庭内暴力のあげく母親と妹を“殺された“主人公は口を開けば
クソ野郎!
自分の気持ちをそれにふさわしい言葉で表現できない。
その代り、すぐに手が出る。
チンピラ、借金の取り立て、凄腕だ。
チンピラ仲間の弟分たちも殴る。
凄まじいのは刑を終えて一人暮らす父に対する殴る蹴る。
しかし冒頭の暴力場面で彼が殴られている女を救ったのをみている俺には彼の優しさが透けてみえる。
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一人で子育てをする姉の子を可愛がる。
彼独特の不器用な可愛がり方で。

路上で唾をはいたらすれ違った女子高生のネクタイにかかった。
落し前をつけろ、バカ野郎!と平然という女の子。
彼女の父はベトナム帰り、母親の死んだことも分からず、汚い言葉で娘を罵る。
弟は鬱屈してゲーセンに入り浸る。

二人がお互いの境遇など一言もしゃべらないままに奇妙な付き合いが始まる。
恋愛ではない。
憐みでもない。
追いつめられた動物がお互いに自分と同じ匂いを嗅いだかのような。
愛があることだけは間違いない。
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説明はいらない。
スピーデイな場面展開を息を詰めて観ている。
感じるのだ。
この世界のどうしようもなさを。
どうしようもない世界で優しさをもちつづけることの難しさを、切なさを。
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前半快調なテンポで展開していた映画は途中からやや息切れしたかもしれない。
事件が多すぎるのだ。
とくにラストはもたもたした。
惜しい!
製作・監督・脚本・編集・主演を一人でやったヤン・イクチュンの初監督作品だという。
彼の思いがあふれてあふれてこんな映画になったのかもしれない。

しかし前半だけでも素晴らしい。
北野の初期の作品をもっと研ぎ澄ましたような、、そう、北野の映画は色が豊かだけれど、こちらはモノクロのような印象が残る。
流す血さえ黒い。
Commented by junko at 2010-04-03 14:44 x
Ciao saheiziさん
暴力映画は苦手です。
観てて、身体も心も痛いから、
暴力にもそれなりのその人の伝えたいメッセージがあるんだろうが、それでも全然きれいじゃないし、いやだなあと思う。

saheiziさんのアドバイスに従い、お粥にわさびを添えてみました。
旨かった!
ありがとう。
Commented by c-khan7 at 2010-04-03 18:20
殴る蹴るの映画、、う〜〜ん。気持ちが落ちそうですね。。
こちらの体力と気力が無い時には、その落ち込みから中々、もどれそうもありません。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-03 21:33
junko さん、そうですよね。でも人は追いつめられると暴力で自己表現するしかないのかも知れない。
言葉が出てこないのです。
言葉で叫ぶことが出来るのは幸せなことかもしれません。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-03 21:35
c-khan7 さん、たしかに、でも一見の価値はありますよ。
Commented by kaorise at 2010-04-04 00:09
ヤクさんは正直な方なんですね、、正直すぎてストレートに表現してしまう哀しさと強さというか、、そんなものを感じます。
私は北九州出身なので、幼いころからこういう人はそばにいるんだな、と感じてきたので、、そんな風にしか生きれん(自分を表現できない)人もおる、という切なさを感じます。
ーいくらその人が悪くてもね、あんまり責めたらいけんとよ、、といってた父の言葉を思い出しました。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-04 08:38
kaorise さん、哀しさと、やはり弱さかも、正直な気持ちを生きることに生かせない弱さ。
それがひねくれたり暴力になって発現していく?
Commented by kaorise at 2010-04-04 15:55
暴力的な人や回りの人々の生き方を描くことで、そういう人にも色んな事情があるし、愛もあるのだ、という世界を正直に映画表現にできたことが強さだと思ったんです。
暴力を行うひとの強さということではなく。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-04 21:29
kaorise さん、あはは、ヤクさんというからヤクザのことかと思いました。
ヤンさんのことだったのですね。おっしゃる通りだと思います。
彼も家庭的には不幸な人のようです。
Commented by きとら at 2010-04-04 23:48 x
 さっそく予告編を見ました。
 高校生役の女優の演技力、台詞の力、すごいですね。
 大阪は4月10日から。絶対、見に行きます。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-05 08:53
きとら さん、奇跡、かもしれません。日本人には作れない映画のように思いました。
俳優たちもみつからない。
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by saheizi-inokori | 2010-04-03 12:12 | 映画 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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