死刑についてどれだけ知っているか 読売新聞社会部「死刑」

2008年10月から2009年6月にかけて読売新聞に連載された記事をまとめたもの。
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死刑執行の実際。
確定囚の内から誰がどのようにして選ばれ執行命令が下されるのか。
告知はいつどのようにしてなされ、その後の手順は?
死刑確定後の毎日は?
4畳ほどのトイレと洗面所も一緒の外も見られない独房、運動は12.5㎡の鳥かごのようなスペースで歩くか縄跳び(東京拘置所)、俺は耐えられないだろう。
アメリカなどとは違って殆ど公開されない死刑の実際。
死刑反対の気持ちがありながら死刑制度に手を貸していることの矛盾に悩む教誨師。

死刑囚の気持ちの真実と嘘、反省する人、そうでない人。
なんべん殺しても飽き足らないと思う被害者遺族がいるのは当然だが、一方で死刑を望まない遺族もいる。
多くの事例をあげている。
オウム真理教の連中に殺された坂本弁護士の奥様が赤ちゃんの龍彦ちゃんを抱いている写真が載っている。
涙がにじむ。

無期懲役と死刑の間で悩む裁判官、眠れない人もいる。
償いの意味、謝罪のあり方。

延べ380人に取材したという。

身代金目的で小学生を誘拐殺害した津田死刑囚は、弁護士の勧めを断り再審請求をしなかった。
再審請求が出ていると執行が延ばされる実態があるので半分以上の確定囚は再審請求をくりかえしているのだ。
聖書を読んだ津田の言葉
「あいつを殺すのは惜しい」と言われるような人間になってから執行されなければ、泰州ちゃん(被害者)の命とのバランスが取れない。心の豊かな人間になりたい。
死刑制度には反対していたが、自らは生き延びることに執着している様子はなく
自分の執行で最後にしてほしい
と言い、執行に立ち会う刑務官のことを
死刑制度の一番の被害者だ。
なるべく仲良くなり過ぎないように気をつけている。
と語った。
1998年死刑執行、刑場でロープが首にかけられる直前、刑務官に
いろいろとお世話になりました。
と礼をいう。
被害者の両親は、津田が反省しているか否かに関心はない。
死刑になっても許せないという気持ちには変わらない。
でも唯一納得できたことは津田が死刑になったことで無期懲役だったら絶対に納得はできなかった。

あげられている実例を読むまでもなく肉親を殺された人たちが犯人を八つ裂きにしてやりたいとさえ思うのは分かる。

だが死刑制度は遺族の感情を根拠にしてはいない。
たとえ遺族が許すといっても国家は死刑にすべき時は死刑にするし、八つ裂きにしたいと言っても懲役どまりにすることもある。

フランスは1981年に死刑制度を廃止した。
ミッテランが廃止するときの世論調査では62パーセントが死刑制度賛成だったけれど。
当時の司法大臣は
国家が人の生きる権利を奪うことは許されない
と語った。
韓国は死刑制度があるけれど1997年以来執行は事実上停止されている。
それは政治犯が“政治的に“拙速で死刑を執行されたことに対する反動もうかがわれる。
制度は生きているから、死刑判決は出ていて2009年5月末現在60人の死刑確定囚がいる。
彼らは凶悪事件が起きるたびに国民世論が死刑執行を促すのをおそれている。
李明博大統領は死刑支持を明らかにしているのだ。

死刑制度の是非は多くの人が頭を抱え、できることなら考えで済ませたい問題ではなかろうか(もっとも日本では80パーセントを超える人が死刑制度を支持しているそうだが)。
俺は死刑制度に反対だ。
もし自分の子どもがゆえなく殺されたら犯人を殺してやりたいと思うだろうが死刑制度には反対だ。

まあ、制度に反対か賛成かはともかく、もう一度我が国の死刑制度をめぐる現実に目を向けてみるのは無駄ではなかろう。
正月なんだし。
Tracked from にぶろぐ at 2010-01-23 10:40
タイトル : 死刑って無力だよな
許せないという思いと、それでも死刑はなくすべきという思いが、ぐるぐる交錯する。その中に「死刑よりもつらい刑」という考えも混じる。 死刑を歓迎する人の多いのはわかる。「正義感」の強い人達なんだろう。国家による、力による「正義」の実現に重きをおく人達。それとともに自分がその「正義」の側にあることを再確認できる。 その対極にあると思っていた人からも今回の死刑を歓迎する言説があって、これには違和感を覚える。とはいえ、私も今回被告から新たに出てきた主張を聞くと、もうこのようなことを二度といえないよう...... more
Commented by 高麗山 at 2010-01-22 11:24 x
良く分からないことが一つ、終身刑が日本に存在しないのは、
死刑と同等、或いはそれ以上の精神的、身体的苦痛を与える
ということなのでしょうか?
Commented by antsuan at 2010-01-22 15:18
この制度には死生観、つまり宗教的考察が欠かせませんね。
「山川草木悉皆成仏」の死んだら必ず成仏する、あるいは生まれ変わるという宗教観をもっともっと認知すべきだと思っています。
Commented by junko at 2010-01-22 16:48 x
Ciao saheiziさん
私も愛する人をこうしてだれかに突然奪われた経験がないので、簡単に発言するのは簡単すぎると思うけど、それでも私も死刑制度には反対。
それは、犯人を殺して諌めることで、被害者の家族の方の気持ちがはたして晴れるのだろうか?というところに疑問があることと、またsaheiziさんの言ってるように、被害者の家族の方の気持ちをベースにして裁くのが正当だとは思わないから。
最終的には、韓国のようなやり方がいいんじゃないかと思います。
判決は死刑だけど、執行しない。
究極の罪に対して、どこまで許せるか?って言うすごく難しい問題ですよね。
Commented by c-khan7 at 2010-01-22 18:47
死刑になりたいが為に犯罪を犯す人にとって、死刑は望むべき物。
生き続けて罪の重さを解ればいいけれど、その犯人それぞれにとって死刑の意味は違うのでしょう。加害者家族にしてみたら、死刑でも無期でも許す事は無いでしょうし、お互いに一生背負う事。辛いです。
Commented by tona at 2010-01-22 21:20 x
津田さんの言葉に胸が詰まりました。
こんな人も決定したから死刑にしなくてはいけないのね。
独房で長期間刑に服していたら、発狂しそうです。
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-22 22:04
高麗山さん、ご存じでしょうが2008年に超党派の議員130人以上が終身刑創設のための刑法改正案を出そうという動きがありました。
鳩山法務大臣は「死刑よりも残酷だ」という答弁をしています。
当時、法務省の役人たちはアメリカの終身刑の実態を視察もしています。
福田首相が突然辞任したために議員たちの動きは停止してそのままになっているようです。
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-22 22:06
antsuan、そういう宗教観をもつと死刑制度は是認されるのですか、それとも否定されるのですか?
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-22 22:10
junko さん、死刑囚を生かし続けるためにはコストも相当かかかるらしい。
事業仕分けではどう判断されるのか。
また被害者遺族にすると死刑囚がいつまでも生き続けて自分たちが先に死ぬというのも納得できないようです。
死刑には抑止効果はほとんどないというのが死刑廃止国の実態っです。
やはり制度を変えるべきだと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-22 22:12
c-khan7さん、まったくつらいことです。
だからあまり議論もしたくない。
でもどこかで避けて通れない事柄ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-22 22:16
tona さん、そんなことになるなら人を殺さなければよかっただろうといいますね。
その通りです。
でも津田さんが目の前にいたら私は絞首刑のボタンを押せないと思います。
Commented by waku59 at 2010-01-22 22:49
死刑制度は反対です。人間は誤審するから。それが理由です。
そのような意味で日本は文化の低い社会だと思います。
Commented by yoshihiroueda at 2010-01-23 10:28
私のブログに、無期懲役と終身刑は実態としては同じという情報を寄せてくれた人がいました。無期懲役では数年経ったら出て来られるというのは誤解で、一方終身刑でも出て来れるそうです。
一番の抑止力は自由が得られているということが幸せと思える世の中になることだと思っています。
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-23 11:29
waku59さん、冤罪もそうですし、有罪だとしても死刑にするかどうかの判断が間違うことは多いと思います。
裁判官(員)がどんな人かによって死刑になったりならなかったりするのは納得しがたいです。
懲役二年と三年の違いとは話が違いますよね。
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-23 11:32
yoshihirouedaさん、無期懲役囚の保釈については時代や世論によってもずいぶん変わるようです。今は長くしているようですね。
終身刑は法律で釈放はしないと決めていれば無期懲役とは違って囚人は荒れ狂うこともあるというのがアメリカの事例で挙げられています。
Commented by mimizu-1001 at 2010-01-24 23:47
拙ブログにコメントとTBをありがとうございました。
死刑問題は過去に2度ほど記事にしたことがありますが、遺族の感情というものも絡みますので、難しいテーマですね。

>4畳ほどのトイレと洗面所も一緒の外も見られない独房
記事と関係ない話ですみませんが、僕は練馬鑑別所で経験してます。
練鑑では様式便器の蓋が椅子を兼ねていて、なかなか機能的でした。
医務室には医師が常駐、図書室には蔵書も多くて本を読む時間もたっぷりありました。
ちょっとしたショートステイみたいで、意外と居心地いいですよ(本当)。
Commented by saheizi-inokori at 2010-01-25 08:29
mimizu-1001さん、八つ裂きにしても飽き足りない遺族の感情を無視はできないけれど、やはりそれだけで考えるわけにはいかない。では何を考慮すべきか、その人の人間観や国家観も問われますね。
私もある警察署で一晩厄介になりました。
ショートステイならともかく、、でした。
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by saheizi-inokori | 2010-01-22 10:15 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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