人々の優しさで深いトラウマが癒されていく 映画「悲しみのミルク」
2009年 12月 13日
歌っているのはペルーの老婆、仰向けに横たわったまま、歌詞が衝撃的で戦慄を誘う。
彼女がゲリラに夫を殺された上でレイプされた様子を歌っている。
襲われたときにお腹の中にいた娘に聞かせているのだ。
娘にやさしく毛布をかけてもらう。
そして死ぬ。
娘は母の恐怖を母乳を通じて受け継いだために“恐乳病”なるトラウマを抱いている。
興奮すると鼻血がでる。
極度の男性恐怖、膣の中にジャガイモをいれている。
そうしていれば襲った男は驚いて去るだろうと、ジャガイモは芽を伸ばすのだがそれを人知れずパチンパチンと切り落とす。
娘は母がレイプされているのを見たと思い込んでいるのだ。
叔父は母を庭に埋めようとするが娘は遠くの村まで運んで埋葬してやりたい。
そのために娘は金持ちのお屋敷に奉公して金を貯めようとする。
同居している従妹は結婚することになり華やかににぎやかにその準備が進められる。
他にも貧民たちの集落で結婚披露宴が民族的な色彩を帯びて行われるシーンが何回か挿入される。
その間母の死体は油を塗られた上で丁寧に布でくるまれて娘の部屋で埋葬を待ち続ける。
その儀式の時に人々が歌う歌のなんと物悲しくも美しいことか。
命の輝きと黄泉の国への旅立ちとを並置してみせる。
はしゃぐ新郎新婦、親族、住民、、その反対側に一人の老婆のくるまれた死体が横たわって釣り合っているかのようだ。
娘はパニックに襲われると即興で歌うことで平静を取り戻す癖がある。
独特の美しい旋律と不思議なメルヘンのような歌詞。
その歌を屋敷の女主人・ピアニストが真珠のネックレスの玉一つづつを与えながら聴きとって自分の発表会に使うのだ。
その曲が好評だったことは彼女に何か自信を与えたようだ。
屋敷に通う庭師、叔父や彼女に心を寄せる男たちの優しさが娘の心を少しづつ開いていく。
娘が母を弔い終えてジャガイモを取り出すことに同意するまでの遅々たる歩みを絵画を見るような映像で淡々と描いていく。
静かな感動。
監督・クラウデイア・リョサ
2009年ベルリン映画祭金熊賞受賞
しかし、観てみたいと思いました。
戦いの中に、必ず横たわるテーマですね。
saheiziさんの説明の語りだけでも、おどろおどろしさともの悲しさ、が伝わってくる。
でも、それでいて、きっとものすごく美しい映画なんでしょうね。
女性監督ならではでしょうね
男性だときっとここまで描ききれない気がします。
観てみたいなあ
リアルであってお伽噺みたいな感じもあるんだなあ。