「反時代的毒虫」   車谷長吉    平凡社新書


大学一年生、過負荷じゃないカフカの「変身」を読む。ここまでは俺も似たようなもんだ。しかし、彼・車谷は違う。小説の主人公・平凡な会社員が、ある朝突然、大きな毒虫に変身して、世の中の嫌われ者として生きていく。その話にすごい衝撃を受けて、以後あたかもその会社員・毒虫に重ねた人生を生きていく。毒虫として終わるかと思えた人生にも”毒”を愛する・評価する人たちがいて、彼は死なない。死なないどころか直木賞までとってしまう。いまや結構な売れっ子だ。

彼と江藤淳、白洲正子や水上勉、河野多恵子、奥本大三郎、異色は中村うさぎ、そして詩人でもある妻・高橋順子との対談集である。

それぞれ腹に一物、口に・・の連中との打ち明け話(実名で有名作家をコキオロス)、文学観、金銭観。ゴシップも盛りだくさん、中村うさぎの旦那が性同一障害者であることを書いてしまった経緯とか。面白くないわけがない。「私小説」といいつつも、そこに「虚実皮膜の間」に漂う人間の業が描かれていなければならない、とか。旅館の下足番や料理人の下働きをやって初めてインテリ以外の人の言葉を聞いた。その言葉こそ命の通った生きた言葉だった、とも。丸山真男の言葉には命がないと。山の手なんかで、窓辺に花が飾ってあると嘘の生活を感じるのだ。

金がなければ生きていけないのだが、それは事実なのだが、やはり金で買えないものに価値を見つけてきたのが近代文学、それがいいのか悪いのかを自己矛盾として考える。

正直な男だ。売れっ子になった自分をもてあましているような風情も見せる。毒を失ったら平凡な会社員に逆戻りじゃけん。

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by saheizi-inokori | 2005-07-04 21:57 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(0)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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