ドストエフスキーよりも難解 高村薫「太陽を曳く馬」(上下)

やっと読んだ。
読んだというと語弊があるなあ。
活字を追ってページをくって上下800ページが終わったというにすぎない。
途中でなんどやめようかと思ったか。
ほとんどわからない!
難解の孤島だ。

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普通なら4冊くらいは読んでしまう時間をかけてここまで来たのはなぜだろうか。
ずいぶん前に読んだ同じ作者の「レデイー・ジョーカー」とか「マークスの山」が面白かった記憶があるから、この小説も我慢していればいつか地平が開けて一気に面白くなるのではないかという期待。

この期待は見事に外れた。
現代絵画とは何か、絵画に人間は何を求めるのか、絵を描くということはどういうことか、などの絵画理論めいたものから、ついでは「カラマーゾフの兄弟」の大審問のような、仏教とは何か、オウム教は仏教か、人は宗教に何を求めるか、人間の自我と生と死、宇宙観などを、ヨーガは、上部仏教は、インド哲学は、、どう認識するのか、などを仏教や哲学用語、時にはマックス・ウエーバーまでを動員して議論する(合田刑事と僧たち)のだから、救いはなかった。
なんだかわざと難しい言葉で分かりにくく書いているようだ。
おバカなお前は分からなくていいと言われているようでもある。
でも画家やお坊さんが読んだら分かるのかなあ。

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ただ、伝わってくるのは21世紀、9・11を経て絵画や宗教、なかんずく日本の仏教が疲弊し退廃しているらしいという空気。
それは当然にも人間の疲弊・退廃なのだが。
そのあたりの言葉や文章に曳きづられて読んだのだ。
意味をもたず、何も表象しない線をひたすら描き続けるといふ行為には、描画のもつ一つの本質があるに違ひない。手の下から一瞬一瞬生まれだしてゆく時間と空間があり、ごく短い時間で眼が次へ移動するやいなや先に生まれたものが消えてゆく。これは描く者にとっては自らの存在の感覚そのものだらうし、見る者にとっても同様です。そして、それは眼に見えたものを描くのとはまったく別の行為です、、
川村美術館にあるバーネット・ニューマンの「アンナの光」やマーク・ロスコの作品(本書の表紙になっている)と小説に登場する精神に異常のある?殺人犯?(死刑が確定してる)の絵についてその父親(禅僧)が死刑を待つ息子への手紙の中で語る。
棄てるものがある限り、それを棄てる意志の自由がある
という論理によって、自由な意志のために<私>を拒絶したらしい、てんかん症であるがゆえにか、その自己到達故にか自動車事故で死んだ元オウム教信者。
彼はオウム教の神秘体験に得心がいかず禅寺で座禅修行をするのだが、サンガに集う雲水たちの閉鎖的な心理空間から排除される。

まあ、お疲れ様、と自分に言いましょう。
やっと読みたかった本に取りかかることができそうだ。

あ、ご存じとは思いますがミステリです。
新潮社
Tracked from 日だまりで読書 at 2010-03-06 16:23
タイトル : 「太陽を曳く馬」 上・下 ?村薫
読み終わりました\(^o^)/ …なぜ,最後まで読めたのか,不思議(^^;) ★☆☆☆☆ 死刑囚と死者の沈黙が生者たちを駆り立てる。僧侶たちに仏の声は聞こえたか。彰之に生命の声は聞こえたか。そして、合田柚..... more
Commented by kaorise at 2009-09-22 01:25
またまた謎めいた小説ですなあ〜
宗教にかぎらず何事も組織化すると形骸化して疲弊しますよね。
前日saheiさんがお書きになった記事と何だかリンクしていると思います。
宗教書だとか本や教えって、参考にすぎないし、自分で社会や自然をいったりきたりして、「言葉」で考えず、ただ細胞で感じ取ったことが一種の悟りなのでは?と思います。
人によっては、それが何も表象しない線を描くことなのかもしれないけど、そんなの説明すんの面倒くさいし、御飯たべる方が大切ですからねえ。
てな調子で私、ある意味では退廃を肯定する人間なんです。
退廃も自然の成り行きだから。
どんなに退廃して疲弊しても、くさった土壌からでも、しぶとく穢れを栄養(参考)にして良いものを人間は必ず築く、って信じてます。
Commented by saheizi-inokori at 2009-09-22 09:21
kaoriseさんは”人間の言葉”で語っていますね。
小説に登場する坊さんたちは仏教の言葉で語ることを求めるのですよ。
人間であることを否定すると言うのかなんというか、やはり判らないんだなあ。
ここに出てくる警察や検事、弁護士などはまさに官僚化しています。
Commented by maru33340 at 2009-09-22 10:04
お疲れ様でした。私も過日何とか最後までページをめくり終えましたが、およそ読んだとは言えません。しかしこの山を越えた後から、世の中を見る時に少し違う座標軸を持ち得たように感じる時があります。(幻想かも知れませんが…)
Commented by saheizi-inokori at 2009-09-22 10:13
maru33340さん、昔から仏教の入り口みたいな本が好きでうろうろしているのですが、それで唯識論などは面白いと勝手に思っていましたが、こいつは歯が立たなかったですよ。
及びもつかない世界があるんだなと思ったらそれはどうも否定されているようですね。
Commented by c-khan7 at 2009-09-22 11:51
この本に関して、この時点でギブアップな感じです。レディージョーカーはスリリングで面白かったですが。。
とにかく、読破、お疲れさまでした。
Commented by saheizi-inokori at 2009-09-22 13:23
c-khan7さん、書いてる私が分からない文章を書いてるんだから、、ごめんなさいね。
レデイ、、あたりでもっと書いてくれればいいのにね。作家の業なんでしょうか。
Commented by kaorise at 2009-09-22 15:20
あ〜そうそうsaheiさんには「法句経講義」オススメします。
仏教本なんだけど、ラジオ放送の内容がベースになっているので、わかりやすくて面白いです。
たぶんご存知だとは思うけど、、
キリスト教ならアントニオ・デ・メロ神父の本が面白いです。
キリストの教えをキーワードにして、わかりやすく、ぜんぜん宗教臭くなく、おっと〜目からウロコだね!って考え方が書いてます。
なんせデメロ神父、インド人でニューヨーカーですから〜
高村先生、もしかして専門用語で語る自分の言葉がない人達を「アホちゃうか」って言いたかったのかも?ね。
Commented by みい at 2009-09-22 17:24 x
なんか、疲れそうな本?ですね。
動機の見えない殺人、仏教とは・・・なんて、わたしには難解すぎる気がする。
けれどいつか読んでみたいです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-09-22 20:47
kaoriseさん、その本はどっちも知りませんでした。
仏教の本もけっこう持っていて読んだのもあるのですが、、ホントに自分の悩みというか問題意識をもって読まないとだめですね。
高村さん、ご自分でもおわかりなのかな。
本屋で立ち読みしてみてください。凄い文章?ですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2009-09-22 20:47
みい さん、殺人なのかどうか?スカッとしないミステリですよ。
Commented by そら at 2010-03-06 16:24 x
「難解の孤島」…あはは!確かに!\(^o^)/
Commented by saheizi-inokori at 2010-03-06 17:49
そら さん、これで読書会やったらどうでしょう。ますます混乱する?
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by saheizi-inokori | 2009-09-21 23:19 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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