文句なしに面白い! スティーグ・ラーソン「ミレニアムⅠ ドラゴン・タトゥーの女」
2009年 08月 17日
面白すぎて昼寝どころか夜もずっと読み続けて2時過ぎに読み終わった。
経済ジャーナリストが財界人の提灯持ちをしている(スエーデンも日本も、変わらないね)のを厳しく批判する敏腕ジャーナリスト・ミカエル(あだ名を「名探偵カツレ」)は財界の大物・ヴェンネルストレムの悪事をスクープするが、それを探知した相手に罠にかけられて名誉棄損で有罪となる。
日頃から煙ったがっていた腰ぬけメデイアの喜ぶまいことか。
しかし、捨てる神あればなんとやら、ヴェンネルストレムを快く思わぬ往年の大実業家・ヘンリック・ヴァンデルがミカエルに仕事を依頼する。
中世からの名門・ヴァンデル一家とヘンリックの評伝を書いてくれという名目の裏に隠された真の依頼とは36年前に忽然と消えた彼の兄の孫娘の謎を解くこと。
ヘンリックはろくでもないヴァンデル一家の誰かが少女を殺したと思っている。
破格の報酬に加えて謎が解けた場合はヴェンネルストレムにまつわる疑惑を証明するネタを提供するという。
スエーデン北部のヘーデスタにあるヘーデビー島はヴァンデルの持ち物、そこに一家が住んでいる。
零下12度という寒い島にある家のひとつに住んだミカエル、正義感が強く、洞察力・直観力に富み、ユーモア精神のある男、なんとも女性にもてる、というよりごくごく自然に人がつくっているガードを通り抜けて(壊すのではなく)、セックスは成り行きで楽しんでいる。
かといって不埒とかイヤらしさを感じさせない、むしろ“癒し”のような趣があるのは彼がマッチョな男ではなくむしろ女性的な優しさにあふれているからか。
一方、背中に大きなドラゴン、首にはスズメバチ、そのほかあちこちにタトゥーを入れ、一見15くらいの少年に見える女性調査員・リスベット・サランデルは驚異的な調査力で人間の抱えている秘密を暴く。
彼女の秘密、暗い過去もこの小説の重要なテーマだ。
スウェーデンでは女性の18パーセントが男に脅迫された経験を持つ。(第一部)小説の各部の冒頭に掲げた言葉を見ても分かるように単なるエンタテインメントではない、女性への偏見、蔑視、暴力に対する抗議の書でもある(原題は「女を憎む男たち」)。
スウェーデンでは女性の46パーセントが男性に暴力をふるわれた経験を持つ。(第2部)
スウェーデンでは女性の13パーセントが、性的パートナー以外の人物から深刻な性的暴行を受けた経験を持つ。(第3部)
スウェーデンでは、性的暴行を受けた女性のうち92パーセントが、警察に被害届を出していない。(第4部)
ジャーナリストとして反ファシズム雑誌に関わり人道主義的政治雑誌を創刊した作者はこのシリーズの第4部を書いている途中で急死したそうだ。
ヨーロッパの歴史、パソコンの威力、調査報道の実際、良心的な経済誌の経営、世襲家族によって経営されるビッグビジネス、、スケールの大きなしかも緊迫したストーリー展開、ミステリとしてのなぞ解きの面白さ、謎自体の“凄さ”、スウェーデンのみならず世界各国でベストセラーになっているのも首肯できる。
スエーデンの人名なんて読みにくくて覚えにくいのにほとんど苦労せずに読んだのは登場人物の設定と描き方が旨いからだ。
未読の本が山積みになっているので、この本を書店で見たときにずいぶん迷った末に買ったのだ。
3部作の内第1部のみ買った、隠居的行動。
今日後の2部と3部4冊を買ってきた。
さあ、眠れるか?
ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利 訳
早川書房
参りました。
訳もいいです。