「赤目四十八瀧心中未遂」  車谷 長吉  (文春文庫)


この人の作品を読んだのは最近だ。古本屋で「銭金について」(朝日新聞社)が、その表題と装丁で手招きしていたのだ。「銭金の問題じゃない」とは、よく聞く言葉だがナニ結局のところがその銭金から離れられない人間の業。一応の広告代理店勤めが続けられず故郷に戻るが、その故郷は帰るべきところであるはずもない。旅館の下足番など生きるだけで精一杯な生活をしながら流れ着いたのが尼ケ崎。このところ急に有名になったあの尼ケ崎。しかし、TV画面で見られるようなきれいな住宅街とは違う。世の中の底に棲んでいるモノたちが薄暗い光りの中でぬめぬめとうごめいているような街だ。そこで主人公はアパートの一室で日がなモツの下ごしらえをして暮らすようになる。

”私小説”(著者は”ワタクシ”と読ませたいのだが)作家の直木賞受賞作。私小説というのだから作家の私生活が題材になっているのは当然だが、ナニセひねくれものの作家が練りに練って創りあげた小説世界だから、どこまでが実際のことかはまったく分からない。寧ろどこまでもフイクションの世界としか考えられないような伝奇・幻想の世界だ。

フイクションとしか考えられない世界であるのに、というか、あるからか、リアリズムの極、人間の哀しさを触るとヤケドしそうな生々しさで書く。今流行の出版社のマーケテイング戦略にむざむざと乗せられているような”癒し”の,”珠玉”の,”涙が止まらない”文学たちとはまるで違う重たい感動。しかし読み終わるとある種の元気が出てくるのは何故だ。今俺のツンドク書棚に車谷ホンがあふれている。

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Tracked from 読んだモノの感想をわりと.. at 2005-09-14 13:02
タイトル : 赤目四十八瀧心中未遂 (車谷長吉)
ストーリーはタイトル通りです。赤目四十八瀧という場所(実在するらしい)で心中未遂するお話。 これは素晴らしい小説でした。小説そのものも優れているけれど、わたし好みというか、いやキャラ設定とかはむしろ好みからはかけ離れているのだけれど、人間の描き方が注文通りというか注文以上で、このくらいやってくれないと胆の底からの満足感は得られないのだよ、と我がことのようにちょっと強気になってしまうくらい感銘したのでした。 この作品のメインは、世捨て人ッぽく生きることを望みながらも自分を捨てきれない、という...... more
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by saheizi-inokori | 2005-07-04 08:38 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(0)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori