その火付け盗賊改め方の長谷川平蔵が 寄席を盛りたてる 紫文の楽しいマンネリ

柳家紫文、唐桟に角帯を締めて、二枚目と言っていいだろう、とんがった顔、本人は演芸界の久米広と自称しているらしい。
聴かせる三味線を挟んで漫談をやるのだが、こんな風だ。
その火付け盗賊改め方の長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人の棉屋が足早に平蔵の脇を通り抜ける(江戸の夕方を感じさせる三味線と太鼓)。

向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、棉屋の身体が前のめりに崩れ落ちる(凶事の予感、劇的な三味線と太鼓)。

「もし、棉屋さん、怪我はなくて?」

「へぇ、お陰さまで、あっしはでぇじょうぶなんすがね、背中の荷物が、、落ちる、落ちるゥ~」
コットン。
拍手に答えて、もうひとつ、
その火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の稽古が終わったであろう一人の相撲取りが足取りも重く平蔵の脇を通り抜ける(このときは国技館の太鼓を思わせる叩き方)。

向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、相撲取りの身体が前のめりに崩れ落ちる。

「もし、お相撲さん、怪我はなくて?
二人の相撲取りが飲み比べていたけれど、どっちが勝ったの?」

「へぇ、それは知らないけれど、弱い方はハクホウ」
棉屋が魚屋になると「商売もんの鯉が暴れてる」けど、それは「コイの空騒ぎ」で、それじゃあ鯉じゃなくて秋刀魚だろう。
マンネリといっても良いのだが時どきネタを少しづつ変える。
三味線で弾く曲も変えているようだ。

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(明治神宮)

書いてみるとどうということのないジョークだが抑揚をつけた語り口に三味線や楽屋のお囃子の効果もあって楽しい。
ちなみに長谷川平蔵だから一部始終を見ているのであって水戸黄門だと「助さん、助けてやりなさい」となって駄目なんだそうだ。
大岡越前バージョンもやってみせたが、そうだね、やはり長谷川平蔵がいいようだ。

都々逸なんかもやってみせる。
強ければ仁義はいらぬ モンゴル人はジンギスカン
なんて。

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(円生自筆の落語原稿。国立演芸場で)

寄席の楽しみはこういう色物(落語以外の漫才、曲芸、俗曲、手品など)がところどころに登場して先刻ご案内のマンネリを披露してくれることにもある。
マンネリと言ってもいつもまったく同じではない。
その日の演者の気分や体調によって、いや、それよりも客席の空気を読んで、ネタや前振りを微妙に変えたり、テンポや強弱に変化をつける(ついてしまう?)。

寄席の主役は落語。
トリの噺までにどうやって空気を作り上げていくかが寄席の毎日。
だからあまり突出して寄席の空気を浚ってしまはないように、さればとて今ひとつ沈滞してるときにはワッと笑わせて次の噺家がやりやすいようにもしなければならない。
最悪はせっかく盛り上がりつつある空気をぺしゃんこにしてしまうこと。
維持しつつ突出もせず、まして壊さず、客がグルグルッと肩を回したような気分にして次の噺家にバトンタッチする。

その火付け盗賊改め方の長谷川平蔵が 寄席を盛りたてる 紫文の楽しいマンネリ_e0016828_23524810.jpg

15人前後の芸人たちが入れ替わりたちかわりしてトリまでお客を飽きさせずにつないでいく。
色物の役割は大きい。
ホールでの独演会でも一人や二人色物を挿むやり方も多い。
Commented by 74mimi at 2009-04-14 05:24
まぁ~ 長谷川平蔵・・・ 悪人に「銭」をバラバラと叩きつける
キリリッとしたお侍さんでした?勘違いかも。
 
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 08:02
74mimiさん、それは銭形平次ですね^^。
平蔵は池波正太郎の『鬼平犯科帳』で有名ですが、実在の人物だったようです。
Commented by maru at 2009-04-14 09:45 x
紫文さん、私も随分昔から見ていますが好きな芸風です。
基本ラインは同じですが確かにオチは少し時代性(というと大袈裟かな)を取り入れ進化しているようですね。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 09:51
maru さん、高崎の人らしいのですが、粋ですね。
Commented by 旭のキューです。 at 2009-04-14 10:55 x
寄席の主役は落語、チームワークがあるのですか!知りませんでした。
Commented by 高麗山 at 2009-04-14 11:51 x
もう、寄席から遠ざかって2年余り。

「コットン」、「ハクホウ」、「ジンギスカン」に10秒以上要するようでは、寄席に行っても附いていけないだろうな!
Commented by 散歩好き at 2009-04-14 13:08 x
ナンマイダ、何枚だ。と言うのも有りますね。
花は常盤ハゼ、何時までも咲いているからその名がツイいたと言います。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 13:31
旭のキューです。さん、お帰りなさい。
チームワークといえば言えるかなあ。そういう空気の日は楽しいですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 13:33
高麗山さん、そうですね。10秒後には次の話題に移ってますね。
でも馴れみたいなものもあるんじゃないでしょうか。聴きなれていると反応が速くなる?頭が落語頭になるのかも。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 13:34
散歩好きさん、ちょっとピンボケになってしまいました。小さな花ですね。
Commented by ume at 2009-04-14 14:55 x
先日はせっかくの高座が不快なものになりましたが、佐平次の記事を読むと、機会があったら「また行こう」という気になります。今年初めての記事を書きました・・・。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 15:12
umeさん、さっき拝見してきました。
ホントになんと言ったらいいのか。
convenientFさんも最近長年の相棒を亡くされて奥様がペットロス症になられたという記事を読んだところです。
時を薬にと祈るばかりです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 15:13
そうそう、ウメさん、落語も薬になるかもしれませんよ。
Commented by tona at 2009-04-14 21:17 x
ムラサキサギゴケがきれいですね。茶色の模様まで良く撮れていますね。
渋い中村吉右衛門扮する鬼平犯科帳を時々観ています。漫談に出てくるのですね。
色物では紙切りが好きです。いつの日か注文したいです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-14 23:49
tonaさん、私と一緒に行った人は正楽に切ってもらいました。それが何だったかを思い出せないなあ。
Commented by 74mimi at 2009-04-15 05:59
そうでした・・・銭形平次でしたねぇ!
両方とも男前ですよね。
今風にいえば イケメン!?
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-15 07:41
74mimiさん、大川橋蔵ですよね、
目もとの涼しい俳優、今もテレビでやってます。
Commented by naomu-cyo at 2009-04-17 08:51
 色物さん。こないだ池袋でホームランが出たんですが、片方がひとつネタを飛ばしたために二人そろってガタガタになって、それをアドリブで切り抜ける感じがいつもとは違う感じで大いに楽しみました!

 GWの鈴本が楽しそうです。権太楼噺、どれもききにいきたいところです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-17 09:44
naomu-cyoさん、ホームラン、最近ちょっと行きあたりません。好きなコンビです。小さな方は前はもっと形態模写をやって抱腹絶倒だったのですが、最近は大きな方がリードしてますね。
昨日は新富区民会館で喜多八の独演会があるので電話してみたらガラガラだというのです。
よーし!と思ったのですが武蔵境からの帰り吉祥寺のホームを目の前にして気が変って帰宅してしまいました。少し疲れ気味だったので。権太楼もどこかで長講をやっていたのですが。
来週はまたいくつか行けそうです。
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by saheizi-inokori | 2009-04-13 23:39 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(19)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori